海上保安レポート 2026

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 海と命を支える、新しい仲間を求めて


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 生命を救う

2 治安の確保

3 領海・EEZを守る

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海上交通の安全を守る

8 海をつなぐ


語句説明・索引

8 海をつなぐ > CHAPTER III. 諸外国への海上保安能力向上支援等の推進
8 海をつなぐ
CHAPTER III. 諸外国への海上保安能力向上支援等の推進

主要な物資やエネルギーの輸出入のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、海上輸送の安全確保は、安定した経済活動を支える上でも極めて重要です。特に、日本関係船舶が数多く通行するシーレーンであり、世界的にも重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡やソマリア沖・アデン湾は、海賊事案等への対処など、海洋秩序維持のためにも、沿岸国の海上保安能力は重要です。海上保安庁では、東南アジアをはじめとした周辺国に対し、海上保安庁が有する知識技能を伝え、各国の海上保安能力の向上を目指した支援を通じ、海上輸送の安全確保に貢献しています。

令和7年度の現況
1 インド太平洋沿岸国への支援

海上保安庁は、インド太平洋沿岸国の海上保安機関に対する海上保安能力向上支援のため、独立行政法人国際協力機構(JICA)や公益財団法人日本財団及び笹川平和財団の枠組み等を通じて、制圧、鑑識、捜索救難、潜水技術、油防除、海上交通安全、海図作製分野等に関する専門知識や高度な技術を有する海上保安官や外国海上保安機関の能力向上支援の専従部門であるMCTを各国に派遣しているほか、各国の海上保安機関の職員を日本に招へいして研修を実施しています。また、令和8年1月、新たに開設されたJICA課題別研修「日本における海洋状況把握(MDA)」コースに講師を派遣し、5か国9名に対し研修を実施しました。

フィリピンに対する支援

海上保安庁は、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に対して、これまで海上保安官を同国に派遣し能力向上支援を実施してきました。平成10年からは海上保安官をJICA長期専門家として同国に派遣し、支援体制を強化しています。また、JICAによる支援プロジェクトの枠組み等を通じて、MCT等を同国に派遣しています。

令和7年度は、5月、6月、8月、令和8年1月(2回)、2月の計8回 MCT等の職員を現地に派遣し、我が国ODAでPCGに供与された97m型、44m型巡視船の乗組員等に対し安全運航、法執行、制圧技能等に関する能力向上支援を実施しました。その他、令和7年12月には、PCG職員を日本に招へいし、油防除にかかる講義や関連施設の見学等を行いました。

インドネシアに対する支援

海上保安庁は、インドネシア海上保安機構(BAKAMLA)が組織される以前より、海上保安官を同国に派遣し能力向上支援を実施してきました。令和6年からはBAKAMLAに海上保安官をJICA長期専門家として同国に派遣し、支援体制を強化しています。また、JICAによる支援プロジェクトの枠組み等を通じて、MCT等の職員を同国に派遣しています。令和7年度は、7月、11月、令和8年2月の計3回 MCTを現地に派遣し、海上法執行に関する研修や制圧訓練を実施しました。このうち、令和7年11月の派遣では、MCTはオーストラリア国境警備隊(ABF)等と連携する形で支援を実施しました。

インドネシアに対する支援

インドネシアに対する支援

ABF等と連携した支援

ABF等と連携した支援

マレーシアに対する支援

海上保安庁は、マレーシア海上法令執行庁(MMEA)が組織される以前より、海上保安官を同国に派遣し能力向上支援を実施してきました。平成17年からはMMEAが業務を開始するのに合わせ、海上保安官をJICA長期専門家として同国に派遣し、支援体制を強化しています。また、JICAによる支援プロジェクトの枠組み等を通じて、MCT等を同国に派遣しています。

令和7年度は、9月、令和8年2月の計2回、海上保安試験研究センター職員とともにMCTを現地に派遣し、鑑識技能に係る講義や実習を実施したほか、令和7年6月には制圧技能に関する能力向上支援を、また、令和8年1月から2月にかけては、特殊救難隊員、潜水士及び海上保安大学校の潜水教官とともにMCTを現地に派遣して、MMEAの潜水指導者及び潜水士に対する技術指導等の支援を実施しました。

マレーシアに対する支援

マレーシアに対する支援

ベトナムに対する支援

海上保安庁は、平成27年9月に締結したベトナム海上警察(VCG)との協力覚書に基づき、能力向上支援を実施しています。また、JICAによる支援プロジェクトの枠組み等を通じて、MCT等を同国に派遣しています。

令和7年度は、9月と12月の計2回MCT等を現地に派遣し、違法外国漁船取締り、海上犯罪捜査と分析、薬物事案関連、海難救助に関する講義や制圧訓練等を実施しました。また、令和7年2月にはVCG職員を日本へ招へいし、海上保安庁の施設見学や海上保安体制に係る講義を行いました。

ジブチに対する支援

海上保安庁は、ジブチ沿岸警備隊(DCG)に対して、JICAによる支援プロジェクトの枠組み等を通じて、これまでにMCT等を同国に派遣し、海上法執行分野における能力向上を支援しています。

令和7年度は、計3回MCTを現地に派遣し、海上法執行等に関する能力向上支援を実施しました。また、令和7年1月にMCTは国際移住機関(IOM)と連携し、現地にて救助機材の取扱い訓練を実施しました。

ジブチに対する支援

ジブチに対する支援

スリランカに対する支援

海上保安庁は、スリランカ沿岸警備庁(SLCG)に対し、海上保安官を同国に派遣し能力向上支援を実施してきました。また、JICAによる支援プロジェクトの枠組み等を通じ、MCT等を同国に派遣しています。

令和7年度からは、海上法執行及び捜索救助に関する能力向上支援を実施しており、令和7年は8月、11月、令和8年は2月の計3回MCT職員を現地に派遣しました。

太平洋島嶼国に対する支援

海上保安庁は、太平洋島嶼国に対してMCT等を派遣しています。

このうち、ミクロネシア3国に対しては笹川平和財団の枠組みを通じた支援を行っており、日本財団、笹川平和財団から供与された船艇または資機材を活用しつつ実施しています。

また、パラオ海上保安機関(DMSFWP)に対しては、平成30年から日本財団協力の下、海上保安アドバイザーを派遣しています。

令和7年5月にはマーシャル諸島共和国へMCTを派遣し、海難救助や国際法の研修等を実施したほか、寄港中の練習船「いつくしま」と協力し、練習船「いつくしま」に乗船中であったアメリカ沿岸警備隊(USCG)実習生、「いつくしま」実習生及びマーシャル海上保安機関(Sea Patrol)職員と合同訓練を実施しました。令和7年12月には、パラオ共和国にMCTを派遣し、パラオ海上保安機関(DMSFWP)に対し、洋上における海難救助想定訓練や国際法に関する研修等を実施しました。

また、令和8年2月にはミクロネシア連邦へMCTを派遣し、ミクロネシア海上保安機関(Maritime Wing)に対し、海難救助や国際法に関する研修等を実施しました。

パラオに対する支援

パラオに対する支援

専門分野での支援
1 海上保安政策プログラム

政策プログラム 構造図

政策プログラム 構造図

海上保安庁は、アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流の促進により、海洋の安全確保に向けた各国の連携協力、認識共有を図るため、平成27年から海上保安政策に関する修士課程の教育を行う「海上保安政策プログラム」(MSP:Maritime Safety and Security Policy Program)を開講し、アジア諸国等の海上保安機関職員を受け入れて能力向上支援を行っています。

このプログラムでは、その教育を通じ、@高度の実務的・応用的知識、A国際法・国際関係についての知識、B分析・提案能力、C国際コミュニケーション能力を有する人材を育成することを目指しています。

本プログラム卒業生には、海上保安分野の国際ネットワーク確立のための主導的役割を発揮することが期待され、現在、第11期生(バングラデシュ、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、スリランカ、ベトナム、日本)が、高い知識の習得と共有認識の形成に向け日々研鑽を続けています。なお、本プログラムは、海上保安大学校、政策研究大学院大学、独立行政法人国際協力機構(JICA)及び日本財団が連携・協働して実施しています。

2 海上犯罪取締り分野の支援

海上保安庁は、海賊対策をはじめとした海上犯罪取締り能力を強化するため、主にソマリア沖・アデン湾沿岸国や東南アジア諸国等の我が国シーレーン沿岸国を対象に、平成13年からJICA課題別研修「海上犯罪取締り」コースを実施しており、これまでに42か国1地域438名を我が国に受け入れています。平成20年度以降は、ソマリア周辺海域における海賊対策強化の必要性から、アジア諸国のほか中東、東アフリカ諸国の海上保安機関職員を招へいしています。

油防除研修

油防除研修

3 海上交通分野の支援

ASEAN周辺海域は、マラッカ・シンガポール海峡など多数の貨物船が行き交う国際的な海上交通路を有しており、日本に向かう原油タンカーの9割近くが通過するなど日本の生命線となっています。

近年、ASEAN諸国の経済成長に伴う港湾の発展、船舶の大型化・高速化・通航隻数の増加、急激な気候変動による自然災害の増加など、ASEAN周辺海域をとりまく環境が大きく変化しており、海上保安庁は同海域における船舶の安全を守るため、関係機関と連携し様々な支援を実施しています。

海上保安庁は、開発途上国の海上交通安全を図るため、平成15年からシンガポールにおいてJICA第三国研修を実施しています。この研修は日本とシンガポールとの政府間協定に基づき、海上交通に関する世界的な基準や日本とシンガポールでの取組などを参加した国の政府機関等の職員に共有するものです。海上保安庁は、毎年同研修に講師を派遣しており、令和7年度までに、延べ39か国の452名に対し研修を実施しました。

海上保安庁は、日・ASEAN統合基金を活用して、VTS(船舶通航サービス)管制官育成のため、平成29年からマレーシア(ポートクラン)のマレーシア運輸省海事局海事訓練センター(MATRAIN)における研修を支援しており、令和6年度からは、JICA課題別研修「海上交通安全(国際認定VTS管制官コース)」として、オンライン、マレーシア、本邦での研修を実施しています。これまで研修員112名が国際基準に合致したVTS管制官に認定されています。

VTSセンターの人材育成

VTSセンターの人材育成

4 海図作成分野の支援

海上保安庁は、インド太平洋地域国が抱える海上交通の安全への課題解決を支援するため、当該地域国における船舶入港に必要な電子海図の整備に関する能力支援に取り組んでいます。

これまで、当該地域国7か国に対して電子海図の整備状況や当該国が抱える技術的課題を現地で調査しました。この調査で得られた課題・知見を基に、具体的な支援策の検討をJICAや国内海洋調査企業等と連携しながら進めています。

また、海上保安庁は、開発途上国の海図作製能力を向上させ、国際航海の安全に貢献するため、主にアジアやアフリカなどの国々を対象に、昭和46年からJICA課題別研修「水路測量コース」(現:海図作製技術コース)を実施しています。

この研修では、水路測量業務に従事する水路技術者を我が国に受け入れ、これまでに47か国483名が参加し、各国の水路業務分野で活躍する人材を輩出してきました。令和7年度は、カンボジア、モルディブ、パキスタン、パラオ、フィリピン、スリランカ、ベトナム、バングラデシュ、マダガスカル、シンガポールから10名の参加がありました。

本研修は、JICAが実施する本邦研修のうち、国際資格が取得できる唯一の研修です。本研修を修了した研修員には、国際水路測量技術者B級が付与され、修了者の多くが各国水路当局の幹部として活躍しています。

*各国の教育機関が実施する水路測量技術者養成コースに対し、水路測量等の国際基準を定める国際委員会(IBSC)により認定される資格で、国際A級、B級の2つに分かれる。

測量船「平洋」での乗船実習

測量船「平洋」での乗船実習