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特集 海と命を支える、新しい仲間を求めて
特集2 未来を拓く新技術
危険物探知用無人艇に関する研究開発
海上保安庁では、令和5年度から造船会社と共同で危険物探知用無人艇の研究開発を行い、令和8年3月に完成し「あるばとろす」と命名しました。
これまで海上で危険・有害物質の流出事故が発生した際は、化学防護服や空気呼吸器を装備した海上保安官が現場に向かい、ガス検知器を用いて有毒ガス等の検知作業を実施してきました。
これら有毒ガス等の検知作業は危険な作業であり、かつ、化学防護服や空気呼吸器を装備した状態で活動する必要があることから、熱中症等のリスクが非常に高い業務でした。
この危険物探知用無人艇「あるばとろす」は、有毒ガスの種類を判別し、ガス濃度を測定できる危険物探知装置が備えられており、ガス検知結果を遠隔にて確認することができます。
従来、有人で実施していた危険なガス検知作業を無人で行うことで、より安全に現場活動を実施できるようになりました。
今後、本格運用に向けて、海上防災のスペシャリストである機動防除隊により様々な検証を実施していきます。
海上保安庁では、このように無人化した装備品を海上保安業務に活用し、省人・省力化を実現するための研究調査を続けています。
パワーアシストスーツに関する研究開発
海上保安庁装備技術部では、各種作業の省人・省力化及び女性職員等の負担軽減などの課題を解決するため、装備品の研究開発を行っています。
令和5年度からは、医療業界向け健康器具メーカーと共同でアシストスーツの新規開発に取り組んでおり、「船舶におけるロープの引っ張り動作を補助するアシストスーツ」として開発に成功しました。これは腕ベルトを介してロープを引く力を骨盤に伝達し、腰や肩の負担をアシストするものです。
海上保安庁では、海上で動けなくなった船舶を安全な海域まで移動するため、巡視船との間に非常に重いロープをつないでえい航する業務があり、海上保安官自らロープを船体にしっかりと固定する作業は重労働です。また、入港時には一般的な船舶と同様、このロープを使って船体を岸壁に固定する作業があり、海事産業全体で船員不足や高齢化が課題となる中、こうした作業の負担軽減は急務となっています。
この開発内容は、第66回日本人間工学会でも発表され、その反響もあり今後一般市場でも販売できるよう、令和7年10月に海上保安庁とメーカーの間で契約締結が行われています。
このほかにも、近年では頭部にウェアラブルカメラ等を装着するためのヘルメットレール、船内の業務環境を改善するための窓用フィルム、幼いお子さんを沈没船から救出するための水中搬送資機材等の開発を行っています。
衛星測位の活用による効率的な水路測量
図1:現行の潮汐の補正
験潮所における海面の高さ関係が、船の位置の海面の高さ関係が同一である、と仮定して補正。
図2:衛星を活用した新しい手法
GNSS*により船の地球楕円体からの高さを得て、地球楕円体からの高さで定義された最低水面との差で水深を求める。
*GNSS GPS等の人工衛星から発射される信号を用いて地球上の位置を測定する衛星測位システムの総称
海上保安庁では、船舶の安全な航行を支えるために海図を発行しています。海図には様々な情報を記載していますが、船舶が座礁せずに航行するためには水深が最も重要な要素となります。
水深を正確に測定するためには、水路測量により海面から海底までの距離を測定するだけでなく、海面そのものの変動を加味する必要があります。海図に記載している水深は、座礁を防止するため最低水面を海面の基準としていますが、海面は潮汐や波浪の影響を受け常に上下しています。現在の水路測量では、験潮所で潮位を観測し、最低水面に基づく水深を算出しています。
これは、験潮所における海面の上下動を海図の中で一様とみなした補正ですが、同じ海図の範囲内であっても実際の海面は船舶の位置と験潮所の位置とで多少の差があります。
船舶が入出港する岸壁周辺の水深は数センチメートル単位での精度が求められるため、海上保安庁は、衛星測位(GNSS)により船舶の位置と高さを直接求めることで、験潮所に依存せずともより正確な水深を測定する技術の開発に取り組んでいます。
この技術により、正確な水深を測定できるだけでなく、これまで常設の験潮所が無い海域で設置していた臨時験潮所を効率化することができます。
また、験潮所による潮位観測では、潮汐の周期を加味するため最低1か月間の連続観測が必要です。地震や津波によって港湾が被災し水深が変化した場合は、迅速に水深を測定し海上輸送による災害復旧を図る必要がありますが、この技術では潮位観測のデータを待たずリアルタイムで水深を補正できるため、大きな期待を寄せています。
海上保安庁では、こうした調査手法を実現するため、衛星を活用した最低水面の調査を実施し、データの作成、公開を進めています。
VDESによる航行安全情報の提供
VDESを用いた情報提供(イメージ)
VDESの利用・普及促進に関するセミナー(令和7年2月)
現AISによる情報提供
電波伝搬調査のイメージ
次世代のAIS※1(船舶自動識別装置)と称されるVDES(VHFデータ交換システム:VHF Data Exchange System)は、現在のAISと比較して航行支援に係るデータ通信量が飛躍的に増大され、これまでのAISの機能に加えて、グラフィカルな情報を含むデジタルデータの送受信が可能となることや、船舶間で航路等情報の交換ができる特性を活かして船舶交通のさらなる安全性向上が期待できるシステムです。
海上保安庁はこれまで、令和7年2月にシンガポールにおいて、IALA(国際航路標識機関)とシンガポール海事港湾庁との共催による「VDESの利用・普及促進に関するセミナー」を開催しました。このセミナーでは各国とVDESに関する現状や課題の共有を実施するとともに、海上保安庁職員がVDESの国際的な検討状況を発表したほか、セミナー中のセッションの議長を務めるなど、同システムの普及に向けた取組みに貢献してきました。
国際的な動向としては、国際海事機関(IMO)において、令和7年5月に第12回航行安全・無線通信・捜索救助小委員会(NCSR)※2において、VDESを現在搭載が義務付けられているAISとの選択制とする海上人命安全(SOLAS)条約の改正案やVDESの性能基準案等が合意され、同年6月にはIMOの第110回海上安全委員会(MSC)においてこれらの改正案等が承認されました。この改正案等は、令和8年5月に開催予定の第111回海上安全委員会での採択を経て、2028年1月1日から発効する見込みです。発効後は、AISの代わりにVDESの搭載を選択できるようになります。
このような動向を受けて近い将来のVDESの利用に向けて、海上保安庁では国際会議の場を通じたVDESの国際標準化の推進を行っています。また、電波有効範囲等の電波伝搬特性を調査するため、2025年から陸上と船舶間でVDESの電波伝搬調査を開始し、基礎的データの収集を実施しています。
※1 AIS(船舶自動識別装置)とは、船舶の位置、速力、針路等の情報及び安全に関する情報を電波で送受信するものです。国際航海に従事する旅客船と300トン以上の船舶、国内航海に従事する500トン以上の船舶に搭載が義務付けられています。
※2 船舶の航路指定、無線設備や航海機器の技術基準・搭載要件、捜索救助に関する国際的指針等について検討を行うIMOの小委員会で、MSCはNCSRの上部委員会にあたります。
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