1 多国間連携・協力による海上の治安確保

 平成4年以降、中国人等の密航事案が多発しているほか、平成10年以降、覚せい剤の押収量が急増しており、そのほとんどが海外からの密輸入によるものです。また、平成8年以降、世界的に海賊事案が増加傾向にあり、その半分以上が東南アジア海域で発生している状況にあります。さらに、平成11年3月に日本海で不審船事案が発生し、平成13年には富山県黒部川河口付近の海岸で水中スクーター様の物体が確認されたことは記憶に新しいところです。こうした、我が国周辺海域における不安定要素は、一国の取り組みのみで解決できるものではありません。


水中スクーター


1)北西太平洋地域海上警備機関長官級会合の開催

会合の目的と成果

 海上保安庁では、国際的な犯罪組織に対応するために、二国間ベースを中心に海上警備機関等との間で実務的な協力関係の構築と発展に努めてきましたが、近年の深刻な治安情勢に迅速かつ的確に対応するためには、二国間ベースの協力に加えて、多国間での、地域レベルの協力関係を早急に構築・発展させていくことが必要不可欠となっています。

 そこで、海上保安庁の呼びかけにより、平成12年12月、北西太平洋地域諸国の海上警備機関のトップ(大韓民国海洋警察庁長、ロシア連邦国境警備庁長官、アメリカ合衆国沿岸警備隊長官及び海上保安庁長官)が出席する「北西太平洋地域海上警備機関長官級会合」が初めて開催されました。


第1回北西大平洋地域海上警備機関長官級会合(東京)

 同会合では、21世紀に向けた連携協力の方向性について次のように取りまとめました。

  1. 薬物・銃器の不正取引、密航、海賊、海上安全・海洋環境等の分野における協力関係をそれぞれの機関の権限の範囲内で、継続的に構築・発展させること。
  2. 情報交換窓口を設定し、活動経験の交換のための専門家の交流や合同研修、各所属船の相互訪問や連携訓練の実施等を検討すること。
  3. 情報交換の重要性にかんがみ、そのための枠組みを早期に構築するため、ロシアにおいて第2回長官級会合を開催し、その準備のための専門家会合を開催すること。
  4. 年1回の持ち回りで長官級会合を開催するとともに、カナダ及び中国に対し同会合への参加を呼びかけること。

第1回会合後の対応

 平成13年7月、カナダからは沿岸警備隊長官、韓国からは海洋警察庁長、ロシアからは国境警備庁長官、アメリカからは沿岸警備隊長官、日本からは海上保安庁長官が参加し、「第2回北太平洋地域海上警備機関長官級会合」がロシア(モスクワ)で開催されました(中国はオブザーバー参加)。

同会合においては、主として多国間協力に関する現状及び今後の展望に関する意見交換及び情報交換体制のあり方が協議されました。

うみまる 情報交換システムを導入するとどのようなメリットがあると思いますか?

 まず、犯罪を犯すおそれのある船舶の動きを詳細に把握できるようになります。そして、各国の海上警備機関が持つ断片的な情報を繋ぎ合わせて、密航、密輸をたくらむ国際的な犯罪組織を効果的に取り締ることができるようになるでしょう。早く実現してほしいですよね。

今後の取り組み

 情報交換システムの構築に関しては、既にバルト海周辺諸国(ノールウェー、フィンランド、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、ポーランド、ドイツ、デンマーク、スウェーデン及びロシア)の海上警備機関が、平成9年6月から各国に海上部隊調整センターを設置し、互いに船舶の動静情報を交換するなどの取り組みを行っています。また、参加国との共同訓練や共同海上取締り等も行われており、これらの取り組みは、密航取締りや密輸取締りに成果を上げています。私たちは、このような取り組みを参考にしつつ、電子メールを活用する情報交換システムを構築し、今後、北太平洋地域において海上犯罪の防止に有効な情報の共有化を進めることとしています。


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2)海賊対策国際会議とその後の対応

会議の目的と成果

 IMO(国際海事機関)に報告された全世界の海賊発生件数を見ると、平成7年には132件だったものが、平成12年には471件になっており、世界的に増加しています。

 このうち、ほぼ半数が、マラッカ・シンガポール海峡及びインドネシア周辺海域を中心とする東南アジアで発生しています。また、多くの日本関係船舶も被害に遭っています。

 東南アジアにおける海賊は、犯行後の逃走範囲も広域化しており、国際的なシンジケートが関わっているものと思われます。したがって、一国のみでの対応だけでなく、地域の共通の課題として取り組むことが必要です。

 日本関係船舶を含む多数の船舶が航行するマラッカ・シンガポール海峡及びインドネシア周辺海域の海上交通の安全確保と秩序の維持は、輸出入のほとんどを海上輸送に頼る我が国にとって極めて重要であり、海上における治安の維持と安全の確保を使命とする海上保安庁の責務です。

海賊の発生件数(全世界) アジアの海賊発生海域及び海域別海賊事件発生割合(平成12年)

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 このような認識の下、平成11年11月のASEAN+1における小渕総理大臣(当時)の提唱に基づき、平成12年4月、海上保安庁は、アジア地域の15の国と地域から26の海上警備機関が一堂に会する「海賊対策国際会議(海上警備機関責任者会合)」を東京において開催しました。

 同会議では、国際的な連携・協力の必要性及び今後の具体的な連携・協力手法等について活発な意見交換が行われ、今後の取り組み及び連携・協力の指針となる「アジア海賊対策チャレンジ2000」が採択されました。

 「アジア海賊対策チャレンジ2000」に盛り込まれた主要な合意事項は次のとおりです。

  1. 可能な限りの相互協力・連携の推進・強化
  2. 連絡窓口リストを活用した関連情報の迅速な交換の実施
  3. 海賊行為に対する取締りの強化
  4. 被害船舶・者に対する可能な支援の提供
  5. 各国の更なる協力・連携を推進するための専門家会合の開催

 また、海上保安庁からは、各参加海上警備機関に対して次の事項を提案しました。

  1. 海上保安大学校等への留学生の受け入れ
  2. 海上犯罪取締りセミナーの開催
  3. 専門家会合の継続的開催への支援
  4. 巡視船の相互訪問及び連携訓練の実施


海賊対策国際会議

うみまる みなさんは、「海賊」と聞くとどのようなものを想像するでしょうか。ここでは僕が最近の「海賊」の実態についてお話します。

 現在、東南アジアで暗躍している海賊は、小さなボートから近くを通る貨物船に乗り移り、刃物や銃で乗組員を脅して船体や積荷を奪って行くというものです。しかし中には乗組員を人質にとり身代金を要求するという悪質なタイプのものもいます。平成13年6月にはインドネシア船籍の貨物船T号がインドネシアからインドへ向かう途中、マラッカ海峡沿岸で錨をおろしてエンジンの修理を行っていたところを海賊に襲われるという事件が発生しました。この海賊は乗組員から金品を強奪するとともに船長を誘拐して逃走し、身代金を要求しています。このように東南アジアを航行する船舶は常に海賊被害の危険にさらされています。今でも海賊がいるなんてびっくりですよね。

会議後の対応

 「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づく連携・協力体制の推進及び海賊対策国際会議での海上保安庁からの提案の具現化を目的として、平成12年9月、海上保安庁並びに外務省、運輸省(現国土交通省)及び国際協力事業団からなる「海賊対策調査ミッション」をフィリピン、マレイシア、シンガポール及びインドネシアに派遣しました。

 その結果等を踏まえ、平成12年11月、インドとマレイシアに巡視船を派遣し、両国海上警備機関との間で海賊の襲撃を想定した、実践さながらの連携訓練を実施しました。

 平成12年11月には、マレイシアにおいて、日本、中国、インドネシア、マレイシア等15の国と地域の海上警備機関が参加し、海賊対策国際会議で提唱された専門家会合が開催されました。

うみまる 海賊対策を効果的に行うためには、関係各国の人材育成も大事ですよね。息の長い話だけど、海上保安庁の取り組みを紹介しましょう。これらは、海賊対策国際会議での海上保安庁からの提案を実現するものです。

 平成13年4月から、アセアン5カ国(インドネシア、タイ、フィリピン、ヴィエトナム及びマレイシア)の海上警備機関から留学生5名を海上保安大学校に受け入れています。

 平成13年10月からは、国際協力事業団の協力の下、海賊や密航・密輸など国際的な海上犯罪を対象に、各国の海上警備機関職員の取締りの立案や監督を行う知識技能を向上させることを目的とした海上犯罪取締りセミナーを開催することとしています。



留学生歓迎式の模様

インド沿岸警備隊との海賊船捕捉訓練

王立マレイシア海上警察との海賊船鎮圧訓練

 ここで、「アジア海賊対策チャレンジ2000」での採択事項がスムーズに機能した事例を紹介します。

 平成12年5月25日午前10時26分、バハマ船籍の貨物船H号から、フィリピン東方海域において海賊に襲撃されているとの遭難信号がインマルサット衛星を介して海上保安庁に入りました。

 海上保安庁では「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づき作成された「情報連絡窓口リスト」に基づいて、速やかにフィリピン沿岸警備隊等の関係先に情報を提供するとともに、関連情報の収集にあたりました。

 また、これと並行して巡視船・航空機の緊急出動態勢をとり、不測の事態に備えました。

 H号を捜索していたフィリピン沿岸警備隊は、H号が翌26日午後12時30分頃、フィリピンのダバオに無事入港したことを確認し、同号に赴き調査した結果、遭難警報は乗組員が発信器を誤操作したため発信されたものであることが判明しました。

 実際の海賊事件ではなかったとはいえ、「海賊対策国際会議」での採択事項がスムーズに機能し、その有効性が実証された事件でした。

今後の取り組み

 マラッカ・シンガポール海峡及びインドネシア周辺海域を通航する船舶の安全を確保するためには、国際的な犯罪組織に対抗できるだけの海上警察力を周辺各国で構築することが必要です。

 そのため、私たちは、専門家会合の継続的な開催、各国海上警備機関との連携訓練の実施、留学生の受け入れ、海上犯罪取締りセミナーの実施等を通じ、東南アジア諸国等との連携・協力体制の一層の強化に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

 海上保安大学校を巣立っていく留学生は、マラッカ・シンガポール海峡及びインドネシア周辺海域の平穏のために、また、関係国の連携・協力のために重要な役割を担っていくことでしょう。

うみまる 海賊対策で海上保安庁が独自に取り組んでいることについて紹介します。

 1つ目には、マラッカ・シンガポール海峡やインドネシア海域に、定期的に巡視船や航空機を派遣して、関係機関との連携訓練等を行うこととしています。この活動を行うことで、海賊事案の発生を防ぐ大きな抑止力になると考えています。

 2つ目には、無給油でこれらの海域を往復できる新型ジェット機の配備を平成13年度から4年計画で進めています。これも、海賊事案の発生を防ぐ大きな抑止力になることでしょう。

 3つ目には、情報収集能力の向上を図るため、社団法人日本海難防止協会シンガポール事務所やマレイシアにある国際商業会議所国際海事局海賊情報センターなどの関係機関との連携・協力を推進しています。

 こんなに頑張っている海上保安庁は頼もしいですよね。

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