第9章 海上保安に関する国際活動


T 関係諸国との連携・協力


1 治安の維持

 11年10月22日、貨物船アロンドラ・レインボー号(約7,000トン、日本人2名を含む17名乗組み)が、インドネシア・スマトラ島クアラタンジュン港から日本に向け出港後消息不明となった。

 10月27日に本件情報を入手した海上保安庁では、直ちに関係国の救助調整本部(RCC)に対して情報提供を行い捜索救助依頼を実施するとともに、巡視船「はやと」及び大型航空機を派遣し空と海から捜索活動を実施した。

 このような捜索活動及び関係各国の機関との協力により、11月9日、乗組員は全員タイ・プーケット島の沖合でゴムボードで漂流中のところを航行漁船に発見救助され、船体は、インド沿岸警備隊により11月16日、同国ゴア西方約270海里の海上において追跡の末捕捉された。

 この事件を契機に海上保安庁は、海賊問題に対し、今年4月の日本における海賊対策国際会議の開催を始め、関係各国機関とのますますの連携強化を図っている。

アロンドラ・レインボー号を追跡するインドコーストガード巡視船

インドコーストガードにより拘束された運航者

2 海上における安全確保

 (1) アジア地域等における海上交通の安全の確保

 近年、IMO(国際海事機関)等の各委員会において、マラッカ・シンガポール海峡を始めとする東南アジア海域における船舶交通の安全確保が重要な問題として取り上げられている。(社)日本海難防止協会では、同海域における航行安全対策等に関する情報の収集及び調査・研究を行っているところであり、海上保安庁としてもこれに協力しているところである。

 (2) 航路標識関係

 極東海域における広域電波航法システムの効果的、合理的な整備の推進及びその安定運用を図るため、日本、中国、韓国、ロシア各国の運用機関は、ロランC国際協力チェーンを構築することとし、8年1月1日からその運用を開始(ロシアを除く。)した。

 各国の運用機関は、利用者への安定したサービス提供を行っていくため、協力チェーンの運用に関する会議を毎年1回開催しており、極東におけるロランCを始めとする電波航法システムの安定運用のため相互協力を図りつつ、精度向上のための技術改革に協力して取り組んでいる。

 11年度には、関係各国による極東電波航法業務(FERNS)委員会の第8回会合を東京で開催し、運用ガイドラインの改訂、ディファレンシャルGPSに関して情報交換を行った。また、同会合に先立ち、極東周辺海域におけるロランCの利用範囲拡大のための国際協力を目的とする協定締結に向けて日本側最終案を外交ルートを通じ各国に提示した。

 (3) 東チモールにおける緊急事態に備え巡視船を派遣

 11年8月、東チモールで、インドネシア共和国政府が提案した東チモールにおける特別な自治に関する枠組案に対する東チモール人の民意を確認する直接投票の実施に伴い、今後緊急事態が発生する可能性も排除できないことから、外務大臣から運輸大臣に対し、邦人が安全に退避するための輸送準備に万全を期すべく、当庁の巡視船をインドネシア方面に向け派遣させ、オーストラリアのダーウィン港で待機するよう要請があった。これを受け、海上保安庁では、直ちに本邦南方海域において救難しょう戒に従事中の巡視船「みずほ」をダーウィンに向け派遣し、投票結果が発表される9月4日には、「みずほ」はディリ港沖にて待機体制をとった。

 4日の開票の結果、自治提案拒否が有効投票数の78.5%を占めたが、直接投票の実施後、東チモール西部で国際連合東チモール・ミッションの現地職員等を標的とした襲撃事件が続発する等、東チモールの治安状況は急速に悪化し、5日外務省は、海外危険情報の危険度5「退避勧告」を発出した。

 7日までに、退避を希望する現地在留邦人が政府チャーター機等により全員東チモールを離れたことが確認されたことから、外務大臣から巡視船の撤収要請がなされ、「みずほ」は、9月14日、名古屋港に帰港した。

 (4) アジア太平洋地域における捜索救助(SAR)体制の確立

 近年、IMO等において、国際的な捜索救助体制を確立するための努力が続けられている。
「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)(昭和60年我が国について発効、12年3月末現在締約国数65か国)は、海上における遭難者を迅速かつ効果的に救助するため、沿岸国が自国の周辺海域において適切な海難救助を行えるよう国内制度を確立するとともに、関係国間で協力を行うことにより、究極的には、世界の海に空白のない捜索救助体制を作り上げることを目的とするものである。

 我が国は、同条約の勧告に基づき、船位通報制度を導入したほか、ヘリコプター搭載型巡視船の整備等捜索救助体制の充実を図る一方、隣接国とのSAR協定締結等により国際的な協力体制の確立に努めている。

   @ 隣接国とのSAR協定

 SAR条約は、締約国に対して、関係締約国及び隣接国との間で捜索救助区域の設定、捜索救助に関する適当な措置について合意をするよう要請している。こうした捜索救助に関する協定の締結により、お互いの責任分担が明確になるとともに、捜索救助に関する協力が促進され、効果的な捜索救助が可能となる。

 このため、我が国は、米国との間で、昭和61年12月に「日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の海上における捜索及び救助に関する協定」(日米SAR協定)を締結した。この結果我が国は、我が国が捜索救助活動の調整に関し必要な責任を負う捜索救助海域として、本邦から1200海里に及ぶ広大な海域を担当することとなった。

 ロシアとの間では、昭和31年、旧ソ連との間に締結された「海上において遭難した人の救助のための協力に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の協定」(旧ソ海難救助協定)に基づき捜索救助に関する協力を行っている。

 また、韓国との間では、2年5月韓国との間で締結された「日本国政府と大韓民国政府との間の海上における捜索及び救助並びに船舶の緊急避難に関する協定」(日韓SAR協定)に基づき捜索救助に関する協力を行っており、11年10月には韓国釜山沖において、初の捜索救助及び油防除の合同訓練を実施した。

   A 船位通報制度

 船位通報制度は、参加船舶から提供される航海計画や航行中の船舶の位置等の情報をコンピューターで管理し、船舶の動静を見守ることにより、海難発生時の迅速かつ的確な捜索救助活動を可能とする制度であり、SAR条約においてその導入が勧告されているものである。 海上保安庁では昭和60年10月から、我が国の船位通報制度(JASREP:Japanese Ship Reporting System)の運用を開始している。

 JASREPは、米国の船位通報制度(AMVER)とも連携し、海上保安庁と米国沿岸警備隊の間において相互にデータ交換を行うことにより、太平洋における迅速かつ的確な捜索救助活動の実施を可能としている。また、我が国周辺地域の国との船位通報制度の効率的な連携を促進するために、11年10月には船位通報制度の連携と協調に係る専門家会合を開催し、船位通報制度の連携に関し関係国が協力していくことで意見の一致を見た。

 今後ともSAR条約締約国の捜索救助機関との連携を深めていくとともに、非締約国に対しても、SAR条約への締結促進の働きかけを行い、IMOの活動を支援するなど、世界的な捜索救助体制の確立に向けて国際的な協力を強力に推進していくこととしている。

3 海洋環境保全

 (1) 海洋環境の保全に関する地域協力

 海洋環境の保全に関しては、MARPOL73/78条約(1973年の船舶による汚染防止のための国際条約に関する1978年の議定書)による汚染防止、OPRC条約(1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約)による防除システムの確立等の施策が講じられるなど、IMOを中心として、従来から積極的な取組がなされており海上保安庁もこれに積極的に参画している。

 近隣諸国との協力体制については国連環境計画(UNEP)が、日本海及び黄海における海洋環境の保全を目的としたNOWPAPを推進しているところであり、日本、中国、韓国、ロシアが参画している。海上保安庁は、同行動計画において海洋データ、海洋汚染防除の分野における検討に積極的に参画しているところである。

 また、海上保安庁は各国の油防除機関との専門家会合、国際会議を通じて、油防除体制の現状等について情報及び意見の交換を行うとともに、各国と合同流出油防除総合訓練を実施するなど協力関係の確立に従来から積極的に取り組んでいる。

 11年10月には、海上保安庁も、韓国釜山沖において韓国海洋警察庁とともに「日韓合同救難・防災訓練」を実施した。また、11年12月には、フィリピン・バタンガス沖において、フィリピン・インドネシア・日本の三国合同による流出油防除訓練を実施した。 

 (2) 海洋環境状況把握のための国際的な連携

 国連教育科学文化機関(UNESCO)・政府間海洋学委員会(IOC)が中心となって、世界規模の気候変動の解明、海象の長期予測等を行うために世界海洋観測システム(GOOS)構想を提唱した。

 8年10月から西太平洋海域におけるGOOSとして、北東アジア地域海洋観測システム(NEAR・GOOS)が運用されており、日本海洋データセンターは、同システムにより取得したデータを管理する機関として参画している。

 また、UNEPが推進している北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)への対応についても具体的なモニタリング計画の策定及びデータベースの構築等について、技術及び知見の蓄積を生かして積極的に参画している。

 (3) 国際科学技術協力

 国際科学技術協力は、環境問題等地球規模での対応が必要な問題の解決、あるいは宇宙、海洋に関する研究開発の効果的、効率的な推進に不可欠である。

 海上保安庁は、米国等との間で情報交換、研究者の交流、共同研究等を行っており、その主なものは第2−9−1表のとおりである。

第2−9−1表 国際共同研究等の概要

項 目

概 要

天然資源の開発利用に関する日米会議海底調査専門部会

 昭和39年1月に東京で開催された第3回日米貿易経済合同委員会で設置についての意見の一致をみたもので、天然資源分野で技術者の交流及び情報の交換を行うことを目的としている。海上保安庁は同会議の海洋資源・工学調整委員会の9部門の一つである海底調査専門部会を担当し、人的交流,共同調査等の協力活動を推進するため、毎年、日米交互に会議を開催している。

人工衛星レーザー測距による測地及び地球力学の研究

 昭和57年11月にワシントンで開催された第2回宇宙分野における日米常設幹部連絡会議において実施につき意見の一致をみたもので、人工衛星レーザー測距観測に関する情報交換を行い、衛星測地及び地球力学研究の基本となるデータの整備を図るとともに、観測精度の向上と地球力学モデルの改良を図ることを目的としている。 現在、米国航空宇宙局との間で、測地衛星「あじさい」等の共同観測及びデータ交換等を行っている。

海洋情報管理

 昭和56年11月に開催された日仏科学協力海洋開発部会と、昭和59年12月に東京で開催された第6回日加科学技術協議において実施につき意見の一致をみたもので、海洋情報管理・提供サービスの効率的かつ円滑な運用システムについて協議し、二国間の海洋情報交換を緊密にすることを目的としている。 現在、日加間においてはカナダ水産・海洋省海洋環境データサービス部と人工知能を利用した水温データ品質管理ソフトウェアの共同開発及びデータ交換等を行っている。 また、日仏間においては仏国海洋データセンターとの間で、研究者交流を行い、西太平洋及びインド洋域のデータ交換システムの確立を図ることとしている。

4 各国の関係機関とのハイレベル協議の開催

 11年4月に韓国の仁川において海上保安庁と韓国海洋警察庁との間で初の長官級協議を行い、11年10月にも釜山において行われた「日韓合同救難・防災訓練」にあわせて、海上保安庁長官が韓国海洋警察庁長と会談を行った。

 12年4月には、長官が初めて中国を訪問し、北京において中国公安部長(大臣)及び交通部副部長(次官級)等と会談した。

 また、12年3月にシンガポールにおいて行われた第4回アジア太平洋海上保安主管庁フォーラムに長官が出席した機会に、アジア太平洋地域の海上保安機関の長と積極的な意見交換を行い、協力関係の強化に努めるとともに、これにあわせて、海上保安庁長官として初めてベトナムを訪問し、ハノイにおいて同国海運総局総裁と会談を行った。

 今後も、海外の海上保安機関との協力関係を確立し、相互の信頼関係を醸成するため、積極的に長官級ハイレベル協議を実施していくこととしている。

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