第6章 自然災害への対応


 我が国は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、陸側のプレートが複雑にぶつかり合う場所に位置していることから、地震や火山活動が活発であり、過去に幾度となく、これらによる被害が発生している。

 また、気象的にも梅雨前線や秋雨前線の停滞、あるいは夏季から秋季にかけて襲来する台風の進路上に位置するなど、自然災害の発生する危険性の極めて高い地理的条件を有している。

 海上保安庁では、防災業務計画、震災応急マニュアル等を作成し、災害発生時には迅速・的確な救助活動等の災害応急対策がとれるように体制を整備しているが、これらの災害の発生は予測が困難な場合が少なくなく、今後とも、巡視船艇・航空機等の整備や訓練の充実等により、情報伝達や救助活動の応急対策を迅速・的確に講じることができる体制を整備する必要がある。

1 自然災害対策

 (1) 応急体制の整備

 海上保安庁では、災害、海難、事件、事故の発生に備えて、24時間の当直体制をとるとともに、巡視船艇・航空機を配備している。

 災害が発生した場合には、直ちに配備中の巡視船艇・航空機による被害状況の調査や救助活動等を実施するとともに対策本部を設置し応急体制を確保している。

 また、中央及び地方の防災会議への参加等を通じて、防災計画の策定等に積極的に取り組むとともに、災害発生時の情報連絡体制や災害応急活動を実施する際の関係機関との連携体制の確保を図っている。

   ア 有珠山噴火災害への対応

 12年3月31日に有珠山の噴火したことを受け、海上保安庁では、本庁及び第一管区海上保安本部に対策本部を設置し、付近住民の避難及び物資の輸送等に備え、巡視船艇11隻、航空機10機を配備し即応態勢をとった。

   イ 三宅島火山活動への対応

 12年6月26日に緊急火山情報が発表され、三宅島の噴火の可能性が高まったことから、海上保安庁では、本庁及び第三管区海上保安本部に対策本部を設置し、三宅島住民の島外避難に備え、巡視船艇17隻、航空機8機を発動した。また、付近航行船舶に対して注意を喚起する航行警報を発出、測量船「昭洋」による海底調査、GPSによる地殻変動の調査(囲み記事参照)、気象庁に対する観測協力、東京都からの要請による関係職員・物資の輸送等を行った。

三宅島の調査

 緊急火山情報を受けて、海上保安庁では危険な海域でも海底地形や海水の採取を行える無人調査艇「マンボウU」による調査を開始し、採取した変色水の分析を実施した。安全が確認されてからは測量船「昭洋」のマルチビームサイドスキャンソナーにより詳細な海底調査を行い、三宅島大鼻西方1.5kmにおいて、海底噴火の痕跡である火口3か所及び付近に多数の地割れを発見した。

 また、三宅島と神津島にGPS受信機を設置して、地殻変動を連続的に監視し、三宅島験潮所が火山活動に伴い南南東方へ最大約38cm移動したこと、神津島験潮所が地震活動に伴い西方に最大約10cm移動したことを確認した。これらの調査・観測成果は、火山噴火予知連絡会に随時報告され、火山活動の推移を評価する資料として使用されている。

 このほか、東京大学地震研究所及び海洋科学技術センターと共同し、三宅島から神津島にかけての海域に海底地震計20基を設置して観測を行っている(12年7月現在)。

マンボウU

サイドスキャンソナーにより発見された海底の火口列

三宅島鳥瞰図

 (2) 防災拠点の整備

 昭和58年の中央防災会議の決定に基づき、南関東地域に広域的な災害が発生した場合における災害応急対策の拠点として、防災関係機関が立川広域防災基地の整備を実施し、海上保安庁では、6年7月から運用を開始している。また、同決定に基づき、東京湾及び関東一円で大規模な海上災害が発生した場合の海上防災活動の拠点として、横浜海上防災基地の整備を実施し、8年4月から本格的な運用を開始している。

 (3) 沿岸防災情報図の整備

 海上保安庁では、災害が発生したときの救難・救助活動を迅速かつ適切に実施するために必要な情報を、一枚の図に網羅した「沿岸防災情報図」を整備し、防災関係機関に配付している。

 今後も、自然災害発生の蓋然性の高い地域について、引き続き同図の整備を進めていくこととしており、12年度は、関東、関西、九州南部及び北海道地方について調査することとしている。

 (4) 防災訓練の実施

 海上保安庁では、災害が発生したときの職員の呼集、情報の伝達、海難救助、消防、排出油の防除等に関する訓練を地方公共団体や関係機関と合同で実施している。訓練内容には、地震や火山といった地域の特性を反映させている。
 特に、9月1日の「防災の日」を中心に国が実施する総合防災訓練の一環として、対策本部の設置運営、情報伝達、巡視船艇・航空機動員手続き等の訓練を実施するとともに、東京湾、相模湾、駿河湾、伊勢湾等において、地方公共団体や関係機関と連携して、情報伝達、人命救助、排出油の防除、船舶火災の消火等船艇・航空機を用いた実動の防災訓練を行い、相互の連携を深めている。

2 防災のための調査

 (1) 地震に関する調査研究

 文部省測地学審議会において、昭和39年に地震予知研究計画が建議され、現在は10年になされた建議に基づき、「地震予知のための新たな観測研究計画(11〜15年度)」が進められている。また、地震防災対策特別措置法に基づき総理府に設置された地震調査研究推進本部において、11年4月に「地震調査研究の推進について」が決定された。これらに基づき、関係機関は地震予知に関する調査、研究を行っている。

 海上保安庁では、地震予知研究計画に当初から参加し、水路業務で培った高度な海底測量技術、重力・地磁気・海底地殻変動観測能力等を活用して、次のような地震予知に関する調査研究を行っている。

・ 活断層の分布や性質を明らかにするため、特定観測地域の周辺海域やプレート境界域において、海底地形・地質構造・活断層調査を実施(第2−6−1図参照)。

第2−6−1図 襟裳岬海域鳥瞰図

・ 地盤の上下変動をとらえるため、全国28か所の験潮所において、験潮データを常時監視できるテレメータによる潮位の集中監視を実施。

・ 地磁気の変化から地殻の歪みの変化を把握するため、伊豆諸島において、地磁気・地電流観測を実施。

・ 海域の地殻変動を明らかにするため、ディファレンシャルGPS等を利用した地殻変動監視観測及び伊豆諸島の一部における重力計による重力測定を実施。

・ 地震発生に関する長期的予測に資するため、比較的人口密集度の高い、又は活動度の高い断層が存在すると想定される沿岸海域において、活断層の分布や活動履歴の調査を実施。

・ 地殻の歪みを発生させる原動力であるプレート運動を把握するため、石垣島ほか3か所において年1か所ずつ、人工衛星レーザー測距観測を実施。

・ 海底における地殻の変動を明らかにするため、日本海溝(三陸沖)に海底基準局を設置し、海底地殻変動観測を実施。

 これらの成果は、地震調査研究推進本部地震調査委員会等に報告され、海域における断層の分布、性質、地殻の歪量等といった地震発生のメカニズム解明のための基礎資料にされているほか、「海底地形図」、「海底地質構造図」、「地磁気全磁力図」、「重力異常図」として刊行している。

 (2) 火山噴火予知計画への参加

 文部省測地学審議会において、昭和48年に火山噴火予知計画が建議され、現在は10年になされた建議に基づき、第6次計画(11〜15年度)が進められている。

 海上保安庁では、火山噴火予知計画に当初から参加しており、航空機による南方諸島及び南西諸島海域の火山活動観測、海底火山の地下構造解明のための航空磁気測量を行っているほか、無人調査が可能な「マンボウU」による海底の地形調査等により、海底火山に関する基礎資料を整備することとしている。

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