U 海上災害の現状と防災対策


 我が国は、主要資源の多くを輸入に頼らざるを得ないことなどから、狭あいな航路内で原油や液化ガス等が専用船により大量に海上輸送され、さらには、貨物船、漁船等あらゆる船舶がふくそうしている状況にある。このため、我が国周辺海域においては、船舶の衝突等の海難による大量の排出油や海上火災等の海上災害が発生する蓋然性は高く、ひとたび発生した場合には、重大な被害の発生が懸念される。このような我が国の特質を考えると、海上災害の防止のため的確な対応整備をすることは極めて重要な課題である。

1 海上災害の発生状況

 (1) 油排出事故の発生状況

 11年は、海上保安庁が防除措置を講じた油排出事故が176件発生し、この油排出事故を船種別に見ると、貨物船が34件と多く全体の19%を占めている(第2−5−9図参照)。

第2−5−9図 防除措置が講じられた油排出事故件数

 (2) 船舶火災の発生状況

 11年は、船舶火災が110件発生し、この船舶火災を船種別に見ると、漁船が64件と依然として多く、全体の58%を占めている(第2−5−10図参照)。

第2−5−10図 船舶の火災事故件数

2 排出油の防除対策

 (1) 排出油防除体制の整備

 油の排出による汚染事故に関しては、海洋汚染防止法に基づき、油を排出した船舶の所有者等の原因者に対して防除責任を課すとともに、タンカー等に排出油防除資機材等の備付けを義務付けている。

 海上保安庁は、原因者、海上災害防止センター等防除措置の実施者への指導・助言等を行うとともに、原因者側の対応が不十分なときは、自ら排出油の防除を行うなど被害を最小限に食い止めるための措置を講ずることとしている。   

 (2) 排出油防除資機材等の整備

 海上保安庁では、油排出事故に的確に対応するため、全国主要部署に排出油防除資機材等を配備しており、また、タンカー等の所有者及び一定規模以上の油保管施設等の設置者に対し、海洋汚染防止法に基づき適切な排出油防除資機材等を備え付けるよう指導する等により排出油防除体制の整備を推進している。

 また、11年7月から原油の生産(夏季のみ)が開始されているサハリン東方沖掘削基地での油の暴噴事故に備えて、北海道の一部の部署に高粘度油対応油回収装置、大型真空式油回収装置等必要な防除資機材の整備を実施しているところである。

 (3) 漂流予測体制の整備

 油流出事故等による防除作業を的確に行うためには精度の高い漂流予測が必要であり、捜索救難活動を実施するうえでも重要な事項である。

 このため海上保安庁では漂流予測業務に関する企画及び救難防災関係機関との調整等を行う漂流予測管理官を新たに設置するとともに、現場海域で観測される海流・風等の海況データをリアルタイムに収集・伝送するシステムを整備し、これらの観測データによって逐次更新されるデータベースを用いて迅速かつ的確な予測計算を可能とする漂流予測システムの構築を進めている。 

 (4) 沿岸海域環境保全情報の整備

 「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約(OPRC条約)」に基づく「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画(閣議決定9年12月)」において、油流出時における的確な対応に必要な情報の整備が求められている。

 このため、海上保安庁では、沿岸域の情報を迅速かつ的確に提供するため、油防除資機材等の防災情報や社会情報、自然情報などをデータベース化する沿岸海域環境保全情報の整備事業を行っている。

 また、11年4月からは、本庁と管区海上保安本部において、通信回線網を利用したオンラインにより、沿岸海域環境保全情報のデータを油の拡散状況・漂流予測結果とともに電子画面上に表示できるシステム(沿岸域情報管理システム)を運用し、国及び地方公共団体等が油防除措置等を実施する場合の情報提供に備えており、今後は、各種情報を最新のものに維持する等、一層の充実を図ることとしている。

第2−5−11図 沿岸域における情報管理体制

 (5) 関係機関相互の協力体制の強化

 油の排出による汚染を最小限に食い止めるためには、官民の関係者が一体となった対処が極めて重要である。このため、官民合同の調整・防除機関として、排出油の防除に関する協議会が、11年度末現在、全国に111の組織が設置されており、関係機関相互の連絡の緊密化を図り、事故対策の調整、資機材等の備蓄整備、海上防災訓練の実施等が行われている。

 また、OPRC条約の締結に際し、7年5月に設置した「油汚染事件に対する準備及び対応に関する関係省庁連絡会議」(事務局海上保安庁)においては、同条約の規定に基づく国家的な緊急時計画の全面的な改定(9年12月閣議決定)の取りまとめを行ったところである。さらに、12年2月はサハリン沖海底油田プロジェクトにおける油流出事故に迅速・的確に対応するための関係省庁(22省庁)による申し合わせの策定及び北海道沿岸海域排出油防除計画の修正を実施した。

 海上保安庁では、今後とも排出油の防除に関する協議会の体制強化、関係機関との必要な連絡、調整等を行うこととしている。

3 有害液体物質等の防除対策

 有害液体物質等は、その種類も多く、性状及び取扱いも多岐にわたることから、これらを輸送する船舶の海難等により排出事故が発生した場合には、それぞれの物質に応じた適切な防除措置を講ずる必要がある。

 海上保安庁では、船舶所有者に対し排出事故等が発生した場合の通報を指導しているほか、海上災害防止センターに対し、防除技術に関する調査研究、船舶所有者等から委託を受けて行う防除措置の実施体制の整備を指導している。

 また、11年には、有害液体物質の流出事故時等における適切な初動措置を確保することを目的とした、MARPOL73/78条約付属書U(ばら積み有害液体物質による汚染の規制のための規則)が改正され、海上保安庁としても的確に対応していくこととしている。

4 海上消防対策

 海上保安庁は、全国各地の海上保安部署に消防船艇を始め、消防能力を有する巡視船艇を配備し、消火や延焼の防止のための措置等を講じている。

 さらに、原油、LPG、LNG等の危険物を積載した大型タンカーが海上交通安全法に定める航路を航行する場合には、所要の消防能力を有する船舶を配備するよう指示しているほか、荷役中の場合にも一定の消防能力を確保するよう指導し、海上消防体制の確保を図っている。

 また、海上保安庁と消防機関との間では、事故情報の相互通報、責任範囲等を内容とする船舶火災に関する業務協定を締結しており、相互の協力により消火活動を的確に実施することとしている。なお、臨海部の火災についての消防機関の要請についても、積極的に対応することとしている。

5 大型タンカーバースの防災対策

 海上保安庁は、大型タンカーバースの荷役中の事故を未然に防止するため、載貨重量トン数50,000トン以上の油タンカー用バース及び総トン数25,000トン以上の液化ガスタンカー用バースについては、荷役時の事前打ち合わせの励行、防災用資機材の整備、警戒船の配備等を指導している。

 また、載貨重量トン数100,000トン以上の油タンカー用バース及び総トン数25,000トン以上の液化ガスタンカー用バースの建造に際しては、海上における安全防災上の見地から防災資機材等の配備計画、離着桟時の安全防災対策等について指導を行っている。

 なお、11年は、8月30日から9月30日までの間、大型タンカーバース148か所の一斉点検を行い、荷役安全管理体制等について、調査するとともに、安全防災対策に関する指導徹底を図った。

6 国家石油備蓄基地の防災対策

 国家石油備蓄基地には、陸上タンク方式による陸上備蓄(4基地)、地中タンク方式による地中タンク備蓄(1基地)、洋上タンク方式による洋上備蓄(2基地)及び地下貯蔵方式による地下備蓄(3基地)の4種類があり、10基地が操業中である。

 海上保安庁では、これらの備蓄基地の計画段階から、各備蓄方式の特殊性に応じた海上防災体制の整備強化について指導を行ってきており、むつ小川原基地等の4基地、上五島基地及び白島基地の2基地、志布志基地及び串木野基地の2基地において、それぞれ共同で海上防災に必要な資機材等を配備・運用する広域共同防災体制が整備されている。

7 海上災害防止センター

 海上災害防止センターは、運輸大臣の認可を受け、昭和51年に設立された海上防災の実施に関する民間の中核機関であり、次の業務を行っている。 

 ア 海上保安庁長官の指示又は船舶所有者等の委託による排出油等防除措置を実施している。11年度末現在、全国の83港湾で146防災事業者と防災措置実施に関する契約を締結し、設立以来、これまで125の排出油等防除措置を実施している。また、有害液体物質の防除措置について、主要海域における資機材等の整備、防災事業者に対する防災訓練等を実施している。

 イ 海上防災に必要な資機材(油回収船、大型油回収装置、オイルフェンス、油処理剤、油吸着材等)を保有し、これらを船舶所有者その他の者の利用に供している。(第2−5−12図参照)

第2−5−12図 海上災害防止センターの排出油防除資材等配備・備付基地(11年度末)

 ウ タンカーに乗り組む上級船舶職員、石油関連施設の従業員等を対象として、船員法により義務づけられている船舶火災の消火講習に対応した消防実習、油防除実習などの各種研修訓練を行っており、11年度末までに約44,000人がこれらの訓練に参加している。

 エ 大規模油流出事故への対応のための防除技術など、海上防災に関する技術についての調査研究を実施している。

 オ 海上防災のための措置に関する情報収集及び情報提供、船舶所有者及びその他の者の委託による海上防災のための措置に関する国際協力に資する業務を実施している。

 カ その他、東京湾におけるタンカー等の火災警戒業務、国家石油備蓄基地の海上防災体制整備に関する業務等を行っている。

 海上保安庁では、同センターの業務が円滑に実施されるよう指導・監督を行うとともに活動基盤の強化を図り、官民一体となった海上防災体制の確立を図っている。

8 原子力災害の防災対策

 (1) 東海村ウラン加工施設臨界事故の概要

 11年9月30日午前10時35分頃、株式会社ジェー・シー・オー東海事業所において、ウラン溶液を沈殿槽に入れる作業を行なっていたところ、臨界事故が発生し、事業所周辺に放射線が放出された。(10月1日午前8時50分終息。)

 (2) 当庁の対応

 事故発生後、政府対策本部が設置され、当庁においては、11年9月30日、本庁に「茨城県東海村ウラン加工施設事故対策室」、第三管区海上保安本部に「茨城県東海村ウラン加工施設事故対策本部」及び那珂湊海上保安部に「茨城県東海村ウラン加工施設現地対策本部」を設置し、茨城県によりジェー・シー・オー東海事業所から半径10Km圏内の住民に対する屋内退避勧告の周知等が実施されたことから、海上においても航行警報を発令し、付近航行船舶に対し注意喚起を実施した。

 (3) 今後の対策

 政府は東海村ウラン加工施設臨界事故を受け、原子力災害対策特別措置法を制定し、防災基本計画の見直しを行った。これを受け海上保安庁においても防災業務計画を修正し、今後の放射能事故災害に備えるとともに、職員に対する研修・訓練の充実、原子力発電所が所在する海上保安部署に対し、放射能防護服、モニタリング用資機材、除染装置等、放射能防護資機材の整備等原子力防災対策を図っているところである。

前へ戻る 表紙へ戻る 次へ進む