U 救助率を向上させるための取組み
要救助船舶及びその乗船者並びに人身事故者の救助率は、7年から11年の過去5年間においては、いずれもほぼ横ばいで推移している。これらの救助率を向上させるためには、事故情報の早期入手、救助対象への救助勢力の早期投入、救助能力の強化等が肝要であり、海上保安庁では、次のとおり救助体制の充実、強化を図っている。(ITを活用した救助率アップについては、第1部3(2)@参照。)
1 事故情報の早期入手
救助を迅速かつ的確に行うためには、事故情報を早期に入手することが肝要であり、このため海上保安庁では、全国22か所の陸上通信所や行動中の巡視船艇等によりGMDSS(注) に対応した遭難周波数を24時間体制で聴守しているほか、緊急通報用電話番号「118」を導入する等、事故情報の早期入手及び遭難警報への即応体制を整えている(第2−4−7図参照)。
第2−4−7図 GMDSSにおける海上保安通信

GMDSSで事故情報を入手する方法としては、コスパス・サーサットシステムによる方法、インマルサットシステムによる方法、中波、短波、超短波による方法がある。
コスパス・サーサットシステムによる方法としては、船舶や航空機に搭載された衛星EPIRBから発信される遭難警報をコスパス衛星・サーサット衛星を中継して受信するための地上受信局と、地上受信局からの遭難警報を適切な救助調整本部へ配信するための業務管理センター(Mission Control Centre:MCC)の運用を24時間体制で行っている。
MCCは、9年9月から北西太平洋地区における基幹MCCとしての業務を開始し、地区内のMCCへデータの集配信、運用指導、調整等を行うとともに、他の基幹MCCとの情報交換等を行い、国際的な海難情報等の収集提供体制の中で重要な役割を担っている。(第2−4−8図参照)
第2−4−8図 JAMCCネットワーク

インマルサットシステムによる方法としては、インマルサット電話やインマルサットテレックスからの事故情報に対して、本庁運用司令室又は本庁通信所において即応する体制を執っている。
中波、短波、超短波による方法としては、デジタル選択呼出し(DSC)や無線電話などからの遭難警報等を陸上通信所や巡視船艇において受信している。
また、覚えやすい局番なし三桁の緊急通報用電話番号「118」を整備し、昨今急速に普及している携帯電話等を利用しての事故情報の早期通報、収集体制を強化している。
このほか、船位通報制度(JASREP 第4章U−2−(2)参照)に参加している船舶から提供される航海計画や位置の情報等の入手に努めるとともに、特定の通信所において米国、ロシア、韓国といった近隣諸国との間で海難救助に関する情報の交換等を行っている。
11年は、海上保安庁の陸上通信所や巡視船艇において、船舶等が発信した海難に関する通信を2,976件取り扱った。
また、衛星船舶電話等により、海上保安庁に救助を要請してきた船舶の隻数は282隻であり、このうち衛星船舶電話からの緊急通報用特番(12年5月1日の緊急通報用電話番号「118」の運用開始に伴い廃止されたもの)によるものは23隻であった。
さらに、コスパス衛星・サーサット衛星を経由して入手した遭難警報のうち、我が国の捜索救助区域内で実際の遭難に伴い発信されたものは27件であり、これらにより239人が救助された。
2 救助対象への救助勢力の早期投入
(1) 海難等への即応体制
海難等が発生した際に、救助対象へ救助勢力を早期に投するために、海上保安部署、航空基地、特殊救難基地、通信所、管区海上保安本部及び本庁においては、24時間の当直体制をとっている。また、大型台風の接近等により大規模な海難等の発生が予想される場合には、非常配備体制をとり事案の発生に備えている。さらに、漁船の出漁状況、船舶交通のふくそう状況、気象・海象の状況等を勘案し、海難等の発生のおそれがある沿岸海域にあらかじめ巡視船艇を前進配備し、海難等への即応体制に万全を期している。
また、海難等が発生した場合には、巡視船艇、航空機を現場に急行させるとともに、関連する情報を速やかに収集・分析して捜索区域、救助方法等を決定する等、迅速、的確な救助活動の実施を図っている。このほか、船舶の負傷者及び海面を漂流している遭難者に対しては、ヘリコプターの高速性、捜索能力、つり上げ救助能力等を活用することにより、人命の早期救助に努めている。
(2) 船位通報制度
海上保安庁では、海難等が発生した場合に、付近を航行している一般船舶に対して救助の協力を要請し、救助活動を速やかに行うことを目的として、船位通報制度を運用している。
船位通報制度(JASREP:Japanese Ship Reporting System)とは、参加船舶から提供される航海計画や船舶の位置等の情報をコンピュータで管理し、船舶の動静を把握することにより、海難等の発生時に付近にいる船舶を早期に割り出し、救助協力要請を行うほか、参加船舶が海難に遭遇した場合にはその位置を推測する等、迅速かつ的確な捜索救助活動を可能とする制度であり、昭和60年10月から運用されている。また、このシステムは米国の船位通報制度(AMVER:Automated Mutual-assistance Vessel Rescue System)とも連携し、海上保安庁と米国沿岸警備隊との間において相互にデータの交換を行っている。
船位通報制度を有効に活用するためには、多数の船舶の参加が必要なため、毎年定期的に「JASREP参加促進運動」を展開するほか、海運・水産関係者に対する説明会、巡視船艇による訪船指導、周知用パンフレットの配布、海事出版物への掲載等を通じて参加の促進を図っている。11年に本制度に参加した船舶は延べ28,826隻、通報件数は、127,238件となっている。
(3) 洋上救急事業
洋上において発生した緊急を要する傷病人に対し、医師の救急往診を受けさせることを目的として、(社)日本水難救済会が事業主体となり、海上保安庁、関係行政機関、関係団体の協力の下、洋上救急事業が60年10月に発足した。
洋上救急事業では、医師の救急往診の必要があると認められる場合に、洋上救急センターが協力医療機関に医師、看護婦等の派遣を要請するとともに、海上保安庁等が船艇、航空機で医師、看護婦等を輸送する体制となっており、11年においては、34件34人の傷病人に対し、医師・看護婦等63人を派遣した(第2−4−9図参照)。
第2−4−9図 洋上救急出動実績の推移

3 救助能力の強化
(1) 羽田特殊救難基地
羽田特殊救難基地は、危険物積載船の海難救助、転覆・火災・沈没船内からの人命救助及びヘリコプターから特殊救難隊員が降下して行う救助など、極めて高度な知識・技術が要求される特殊な救難業務等を任務としている。現在、特殊救難隊5隊(30名)を編成して、全国で発生する特殊海難等に備え24時間の出動態勢をとっており、11年には151件の特殊海難等に出動し122人を救助、昭和50年10月の発足以来、累積出動件数は2,000件、救助人員は1,000人を超えている。
特殊救難隊は危険性の高い状況下において、船内進入の可否の判断や生存者の救出活動等を実施することから、極めて高度な知識・技術を身に付けている必要があり、これに対応するため、日夜、厳しい訓練・研修を実施している。
(2) 潜水指定船、救難強化巡視船
海上保安庁では、水面下における行方不明者の捜索や転覆船の状況調査等の潜水業務を行う巡視船を潜水指定船として指定し、1チーム4人の潜水士を配置しており、11年は321件の海難救助等に出動した。
また、転覆船の沈下防止措置、火災船からの人命救助、ヘリコプターと連携して行う救助活動等、より高度な知識・技術を必要とする特殊海難等における救難能力の強化を図ることを目的として、潜水指定船の中から各管区に1隻の計11隻を救難強化巡視船として指定しており、11年には204件の海難救助等に出動した。
潜水指定船及び救難強化巡視船では、潜水等の救助技術の向上を図るため、常日頃から訓練、研修を実施している。
4 その他の救助体制
(1) 救急救命体制の充実強化
海上保安庁は、海難等で救助された者に対して、遭難現場や医療機関への搬送途中において応急処置を実施しているが、救助された者の中には高度な処置を必要とする傷病者もいる。
これらの者に対しては、医療機関への搬送に長時間を要するといった海上の特殊性から、適切な対応が必要とされる。
こうした状況の中、海上保安庁は、4年4月から医師の指示の下に救急救命処置ができる「救急救命士」の国家資格を有する職員の養成を続けており、羽田特殊救難基地やヘリコプター搭載型巡視船へ配置している。
このほか、救難強化巡視船及びヘリコプター搭載型巡視船の乗組員を対象として、応急処置に関する知識・技能の習得を図ることを目的とした研修を実施している。
(2) 関係機関との協力等
海上保安庁では、海難等が発生した場合に、必要に応じて自衛隊、米軍等に捜索救助に関する援助等を要請し、救助対象への救助勢力の早期投入、救助対象の早期発見を図っている。
また、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)への加入に際し、60年6月、国内関係省庁間の協議により、関係機関の間の連絡調整のため、海上保安庁に連絡調整本部を設置するとともに、地方機関等で構成する救助調整本部を各管区海上保安本部に設置し、関係機関との協力の下に捜索救助を実施している。
さらに、我が国の船舶が本邦から遠隔の諸外国の周辺海域で海難に遭遇した場合や他国の船舶が我が国の周辺海域で海難に遭遇した場合等における捜索救助の実施に際しては、直接、又は外務省等を通じて、諸外国関係機関と相互に援助の依頼や情報の連絡を行っている。11年には、米国1件、韓国19件、ロシア1件の船舶海難等について、相互に情報の連絡等を行った。
このほか、我が国の船舶が、傷病人の発生、荒天避難等の理由により、外国の領域に緊急入域する必要が生じた場合には、直接、又は外務省等を通じ、当該船舶の入域手続が円滑に処理されるよう依頼するなどの措置も講じており、11年には、108隻についてこれらの手続きを行った。