V ふくそう海域における安全対策


 東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海の3海域では、小型漁船による漁業活動やマリンレジャー活動が盛んに行われていることに加え、背後に大都市及び工業地帯を控えていることから、タンカー・貨物船等が活発に往来し、船舶交通がふくそうしている。港則法に定められた特定港への入港船舶は、11年では約95万隻あるが、その63%に当たる約60万隻が、同海域の特定港に入港している。これら3海域に位置する主要船舶通航路の11年における1日当たりの船舶交通量は、浦賀水道が724隻、伊良湖水道が856隻、明石海峡が1,189隻であった。

 このように船舶交通がふくそうしている海域において、大型タンカーなどの危険物積載船が衝突、乗揚げ等の海難を起こした場合には、海上輸送に支障を生じ、国民生活に大きな影響を与えることとなることが懸念されることから、航行管制を始めとする各種航行安全対策の一層の推進を図っているところである。

 また、関西国際空港2期事業、中部国際空港建設工事の大規模プロジェクトが実施されている海域は、工事作業船等の航行により船舶交通がよりふくそうすることから、船舶の航行安全対策を実施している。

1 海上交通安全法及び港則法の運用

 我が国における船舶交通の安全を確保するための法律としては、国際条約に基づいて基本的な海上交通ルールを定めた海上衝突予防法のほか、海上交通安全法及び前述の港則法が制定されている。

 (1) 海上交通安全法

 船舶交通のふくそうする東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海の3海域においては、更なる船舶交通の安全を図るために海上衝突予防法による基本的な交通ルールに加え、同法の特別法として海上交通安全法が制定されている。

 海上交通安全法は、同3海域の中でも浦賀水道等船舶交通が集中する海域に11の航路を設定し、航路航行義務、速力の制限等特別の交通ルールを定めるとともに、巨大船、危険物積載船等の航路航行に際して、通報を義務付けている。

 また、船舶交通の危険を防止するため、工事や作業に対する規制等も定めている。

 (2) 港則法

 狭あいな海域に多数の船舶が頻繁に出入りし、停泊、荷役等の場所でもある港内では、事故の発生頻度が高く、また、事故が発生した場合には、船舶交通や荷役等の作業に多大な影響を与えるおそれが大きいことから、海上衝突予防法の特別法として、港則法が制定されている。港則法は、入出港船舶の多い港を適用港とし、港内における特別の交通ルールを定めるとともに、工事、作業、漁ろう等について規制を行っており、12年7月現在、適用港は501港である。

 さらに、喫水の深い船舶が出入りできる港又は外国船舶が常時出入りする港であって、危険物積載船舶をはじめ多数の船舶が出入りする港については、衝突等の海難が起こる危険性が高いとともに、海難が発生した場合に、港に出入りする他の船舶等に多大な影響を与えることから、それらを特定港と定め、錨地の指定、夜間入港の制限、移動の制限等の規制を設け、港内における船舶交通の安全と整とんを図っている。12年7月現在、特定港は、京浜、名古屋、大阪、神戸、関門等86港である。また、特定港においては、同法に基づく事務を行うために港長が任命されている。

2 ふくそう海域における情報提供・航行管制

 ふくそう海域を航行する船舶にとって、航行船舶の動静、気象・海象の現況、操業漁船群の状況、航路障害物の状況等の海上交通に関する情報を常時把握することにより、衝突等の危険を回避する動作を余裕をもって行うことができる。このため、海上保安庁では、東京湾、瀬戸内海等に、情報提供と航行管制を一元的に行うシステムとして海上交通情報機構等を整備し、海上交通センターを始め海上保安部及び航路標識事務所が運用に当たっている。

 海上交通センター等では、海上交通に関する情報を常時把握・分析し、航行船舶に対して、きめ細かな情報提供を行うとともに、海上交通安全法及び港則法に基づき、巨大船等が航路を安全に航行できるように航行管制を実施している。このほか、航路及びその周辺海域に巡視船艇を常時配備し、航行船舶が航路を安全に航行するために必要な指導を行っている。

 また、伊勢湾については、15年度の運用開始を目途に、伊勢湾海上交通情報機構の整備を進めている。

海上交通センター

 海上交通情報機構等の中枢となる海上交通センターでは、レーダー施設、気象観測装置によって得られる航行船舶の動静、気象現況等の情報に加え、気象庁からの警報や注意報、海上保安庁関係部署からの海難や航行安全に関する情報、航路しょう戒に従事する巡視船艇からの情報、さらに法令に基づく巨大船等からの航路通報等の情報を収集・コンピュータ処理し、その処理データを基に海上交通に関する情報提供と法令に基づく航行管制を一元的に実施している。 海上保安庁では、昭和52年2月東京湾海上交通センターを横須賀市に設置・運用開始したのを始めとして、順次海上交通センターを整備し、現在6つの海上交通センターを運用しており、ふくそう海域における船舶交通の安全確保に大きな成果を挙げている。現在、15年度の運用開始を目途に伊勢湾における海上交通情報機構の整備を進めている。

第2−2−1図 海上交通センターの概念図

第2−2−2図 海上交通情報機構等の整備

3 大規模プロジェクトの安全対策

 船舶交通のふくそうする瀬戸内海及び伊勢湾においては、関西国際空港2期事業及び中部国際空港建設工事が実施されている。

 これらの大規模プロジェクトは、海上交通等に大きな影響を与えるおそれがあるため、建設中及び完成後の航行安全対策等を十分に確立しておく必要がある。

 このため、海上保安庁では、プロジェクトの計画策定段階から事業主体等の関係者に対し、必要な指導を行っている。

 特に、航行安全対策を策定する過程においては、(社)日本海難防止協会等の海難防止団体の協力を得て幅広く海上交通への影響調査を実施し、これを踏まえて、警戒船の配備、各種の航行援助施設の整備、情報管理体制や防災体制の構築等について指導してきている。

 また、船舶交通の危険を防止するため、建設工事中のプロジェクトについては、必要に応じて、海上交通安全法に基づく船舶の航行の制限を実施するとともに、灯浮標等による工事区域の標示、工事作業情報の周知徹底等に関する指導を行っている。

 今後とも、海上における大規模プロジェクトの進展に対応して、航行安全に係る指導、巡視船艇による航法指導等を効果的に実施していくこととしている。

4 危険物輸送の安全対策

 ふくそう海域におけるタンカーや放射性物質積載船舶などの危険物積載船の海難は、原油等の流出、火災、放射性物質の漏洩等により、船舶交通を遮断し、我が国の経済活動にも重大な影響を及ぼす危険性があり、事故の未然防止には特に配慮する必要がある。

 (1) タンカー

 東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海の3海域の特定港に入港するタンカー隻数は、全国の特定港に入港するタンカー隻数の76%を占めていることから、これら3海域と港内を中心に、タンカーの衝突・乗揚げ事故の防止及び危険物荷役時の安全確保に重点を置いて安全対策を講じている。

 東京湾等3海域においては、海上交通安全法に基づき、LNG、LPG、原油等を積載する総トン数1,000トン以上のタンカー等に対し、航路入航予定時刻等の通報を義務付け、必要に応じ、進路警戒船や消防設備船の配備、航行速力及び航路入航予定時刻の変更等の指示を行っている。

 また、特定港においては、危険物を積載したタンカーの入港に際し、タグボートや警戒船の配備、ボイル・オフ・ガス(LNG・LPGから蒸発したガス)の放出の制限等の指示、停泊・停留場所の指定を行うとともに、停泊中のこれらタンカーへの接近や接げんの制限等を行っている。

 さらに、危険物の荷役・運搬について、当該荷役等の安全を確保するため、岸壁の配置状況や危険物の種類を勘案し、許可基準として荷役許容の標準量、荷役時間、荷役体制等に係る港長の許可基準を定めている。11年は、全国の特定港で約22万件の危険物荷役・運搬の許可を行った。

 このほか、港内おけるタンククリーニング作業については、作業計画を事前に検討し、停泊場所を制限するなど作業中の安全対策や油排出事故防止について指導している。

 (2) 放射性物質等積載船舶

 原子力の研究や利用の進展に伴い、使用済核燃料を始めとする放射性物質等の海上輸送が行われているが、放射性物質等を積載した船舶の荷役・運搬については、港則法に基づく港長の許可が必要であり、その際、夜間荷役の原則禁止、放射性物質に関する知識を有する者を立ち会わせるなど措置を講じている。11年は、全国の特定港で171件の許可を行った。

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