3 国際的な連携による海上の安全確保

うみまる 世界は海でつながっていますよね。ですから、船舶は海を通ってどこにでも行けるわけで、海の安全は世界の人々の共通の願いというわけです。

 海上交通の安全確保については、古くから、通信手段、海上安全情報の提供手段や航路標識に関して、国際的に統一された基準が定められています。


うみまる 海上保安庁においても、これらの基準に基づいた各種の安全対策を講じてきました。

 しかし、近年の情報伝達技術の発達にあわせて、海上安全情報の提供手段や遭難情報の通信手段が、最新の技術を利用した手段に国際的に移行してきています。

 また、1960年代頃からの世界的な経済成長に伴い、国際間の海上物流量、海上交通量が増大し、船舶の大型化も加わって大型船舶による事故が増加しました。このため、国際的な捜索救助体制を構築する重要性が叫ばれるようになり、SAR条約の発効や、さらにSAR条約の趣旨に基づいて締結された日米SAR協定により、我が国は広大な捜索救助区域を担当することになりました。

 さらに、一度発生すればその被害が複数の沿岸国にも及ぶおそれのある大規模油流出事故に対しても、OPRC条約などにより国際的にその対応が図られています。

 このため、海上保安庁ではこれからも、国際的な動向を見ながら、航路標識の整備や海上安全情報の収集・提供、遭難情報の収集手段などに関して最新技術を取り込み、海上の安全確保に努めるとともに、近隣諸国との連携を通じて捜索救助や油流出事故への対応能力の向上を図っていくこととしています。


1)国際的な安全情報の提供と捜索救助体制の充実等による海上交通の安全確保

SAR体制の確立・維持

 我が国は、全世界の捜索救助組織の間の協力を促進すること等を目的としたSAR条約に加入し、また、米国、韓国及びロシアとの間では二国間SAR協定を締結しています。このうち、米国との間の協定では、我が国は国土面積の実に約36倍に当たる捜索救助区域を担当しています。この広大な捜索救助区域における海上保安庁の業務を全うするために、海上保安庁では、後述するGMDSS体制の整備やJASREPの活用に加え、

  1. 巡視船艇・航空機の整備及びその適正配備並びにその有効活用
  2. 近隣諸国の海難救助機関との連携・協力の促進
  3. ODAを活用した近隣諸国等の捜索救助能力向上への技術支援

等の手段を講じてきています。

 また、我が国の呼びかけで、平成8年から、日本、中国、韓国及びロシアの捜索救助及び油防除の実務者による会合(SAR・OPPR実務者会合)を毎年行っています。この会合を通じて、円滑な海難関連情報の交換や救助勢力の相互調整などがスムーズに行われています。

我が国の捜索救助区域

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合同捜索の状況

 海難救助は海の上でのことなので、皆さんが目にする機会は多くないですよね。そこで、近隣諸国と協力した海難救助の事例について紹介しましょう。

 平成12年7月17日、沖縄県那覇市の北西約240海里(約450km)の海上において、中国漁船と韓国漁船が衝突し、中国漁船が転覆して乗組員が行方不明となり、中国と韓国の漁船が行方不明者の捜索中である旨の連絡がありました。

 連絡を受けた海上保安庁は、直ちに巡視船、航空機及び特殊救難隊を現場に急行させました。

 現場海域に集結した海上保安庁の巡視船3隻、航空機3機、韓国海洋警察庁の警備救難艦1隻及び中国救助調整本部のサルベージ船1隻は連絡を取りあいながら、協力して3名の行方不明者の捜索を行いました。不幸にも、行方不明者は発見されませんでしたが、このように周辺国と協力して、迅速かつ適切な海難救助活動を実施すべく、我が国と周辺国間における国際協力・協調を推進しています。

転覆中国漁船に対する日中韓による合同捜索救助の状況

 一方、国際協力事業団を通じて多数の職員を海外に派遣し、捜索救助に関する技術指導を実施しているほか、積極的に近隣諸国と合同の捜索救助訓練を実施するなど、近隣諸国の捜索救助技術の向上にも貢献しています。

 今後も、周辺諸国の海難救助機関との合同訓練などを継続的に実施し、各国の捜索救助能力の向上を図ることとしています。さらに、我が国と二国間SAR協定を締結していない国と同協定の締結を図ることにより、捜索救助能力の向上を図り、一人でも多くの人の救助が可能となる体制の実現を目指していくこととしています。

遭難情報の収集及び海上安全情報の提供

 船舶が世界中のどこを航行していても遭難・安全通信をより迅速・確実に行うことができる通信システムを確立することを目的とした「海上における遭難及び安全に関する全世界的な制度(Global Maritime Distress and Safety System:GMDSS)」の運用が、平成11年2月から全面的に開始されました。これによって、遭難情報の迅速な収集と、海上安全情報の適切な提供を行うことができるようになりました。

 GMDSSのうち、コスパス・サーサットシステムでは、船舶や航空機に搭載された衛星EPIRBからの遭難警報を、衛星を経由して業務管理センター(Mission Control Centre:MCC)に伝達し、MCCがこの情報から遭難位置等を割り出し、適切な沿岸国の捜索救助機関に伝達します。

世界の基幹MCCネットワーク

GMDSSの概要図

 海上保安庁は、平成9年9月から北西太平洋地区における基幹MCCとして、地区内にある韓国、香港及び台湾MCCとの間で、データの集配信、運用指導、調整等を行うほか、米国などの他の基幹MCCと情報交換等を行っており、国際的に重要な役割を担っています。また、中国MCCとも直通回線を結ぶ予定であり、今後より一層地区内のMCCとの連携を強化することとしています。

うみまる ここで、実習船えひめ丸衝突・沈没海難について説明します。

 平成13年2月10日午前8時45分(日本時間、以下同じ。)頃、ハワイ・オアフ島の南約10海里(約19km)において、愛媛県の漁業練習船えひめ丸(総トン数499トン乗組員20名、教官2名、実習生13名乗船)と米海軍の原子力潜水艦が衝突、えひめ丸は沈没し9名の行方不明者が出ました。海上保安庁では同日午前8時47分、えひめ丸から発信された遭難信号をカナダMCC及びアメリカMCC経由で受信しましたが、その信号には船名等の識別番号のみで海難発生位置の情報がありませんでした。このため、えひめ丸あてに電話をかけたものの応答がなかったことから、愛媛県水産部、漁業無線局、KDDI等あらゆる関係先に連絡をとり、えひめ丸の位置や連絡方法等の確認を急いでいました。その27分後の、同日午前9時14分、えひめ丸からの遭難信号を、アメリカMCC経由で再度受信しました。この信号には、えひめ丸の位置情報も含まれていたことから、これによりえひめ丸の遭難位置がホノルル沖であることが判明し、ホノルル救助調整本部(Rescue co-ordination centre:RCC)に事実確認を行い事故の概要を入手、以後、海上保安庁からホノルルRCCに対して、えひめ丸の概要、乗組員数等の情報を提供し、救助活動に協力しました。

 GMDSSにおける海上安全情報の提供には、ナブテックスシステムとインマルサットEGC(Enhanced Group Call)システムの2つがあります。

 どちらのシステムも、海上を航行する船舶に対して船舶の安全航行に欠かせない気象警報や航行警報、海難情報などの海上安全情報を国際的に統一された方式で提供し、船舶では専用の受信機によりそれらの情報を自動的に受信、印字するシステムです。

 このうち、ナブテックスシステムでは、沿岸国が自国の沿岸を航行する船舶に対して情報を提供しており、沿岸から約300海里まで受信可能となっています。

 インマルサットEGCシステムでは、主にナブテックス放送を受信できない沖合いの海域を航行する船舶を対象に情報を提供しています。

 我が国はNAVAREA(ナバリア)第11区域調整国となっていることから海上保安庁が入手した情報のほか、第11区域内の各国からの情報に基づき、北太平洋西部及び東南アジア海域を航行する船舶に対して英語による情報提供を行っています。

 また、海上保安庁では、平成12年10月、NAVAREA第11区域内9カ国(中国、韓国、インドネシア、マレイシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ヴィエトナム及び米国)の航行警報業務の責任者による「東アジア地区世界航行警報会議」を東京において開催し、各国間の情報の共有化を図るとともに、各国と連携したより円滑で的確な航行警報の提供を目指し、世界に先駆けて「NAVAREA XI行警報運用要領」を作成することで合意しました。

 今後は、早急にこの運用要領をとりまとめ、世界航行警報業務の充実・強化を図ることとしています。

うみまる ここで、世界航行警報業務とNAVAREAが創立された経緯などについて紹介します。

 かつて世界の海運国は、航行船舶に緊急に周知を必要とする情報を入手したとき、無線通信・電話等により自国の航行警報として情報提供をしてきました。しかし、各国がそれぞれ独自の体制と方式で情報提供を行っていては、広大な海域を航行する船舶に対しては情報の周知が徹底しないばかりか、ある海域では混信や重複をきたす不都合が生じました。

 このため、昭和47年の第10回国際水路会議にて「調整された効果的な全地球航行警報業務の開設」が決議され、全世界を16の区域(Navigational Warning Area:NAVAREA)に分けて、各区域の責任を担う区域調整国が区域内の情報を収集して提供する世界航行警報業務(WorldWide Navigational Warning Service:WWNWS)が創設されました。

 海上保安庁は、昭和55年4月から第11(XI)区域(東アジア地域)の区域調整国としての業務を開始し、我が国が発信する航行警報は「NAVAREA XI航行警報」と呼ばれ、区域内の各国から情報を積極的に収集・解析・評価し、射撃訓練、漂流物、海底火山、飛行物体の落下など船舶の安全航行に欠かせない情報を迅速に提供しています。

NAVAREA航行警報提供区域図

船位通報制度の運用

 海上保安庁では、海難等の発生の際に、迅速かつ的確な捜索救助活動を可能とするため船位通報制度(Japanese Ship Reporting System:JASREP)を運用しています。

 この制度では、船舶から現在位置や針路、速力などの通報を受けることにより、その船舶が海難に遭遇した場合にはその位置を推測することができます。また、海難等が発生した際、付近を航行している船舶を早期に割り出し、その船舶に対して救助の協力を要請することにより、迅速な救助を可能にします。

 一方、船位通報制度は、米国、中国及び韓国などにおいても運用されており、米国とはそれぞれの参加船舶に関する情報交換等の連携を行っています。今後は中国や韓国とも連携を進めていくこととしています。

 船位通報制度を有効に活用するためには、できる限り多くの船舶の参加が必要です。このため、海上保安庁では、今後とも参加していただく船舶を増やすための活動を行っていくこととしています。

JASREPの概念図

うみまる  JASREPのイメージはわかっていただけましたか。ここでは、このシステムが実際にどのように役立っているかをレポートしましょう。

 平成13年1月17日、単独で世界一周を目指していた日本船籍のヨットY号(乗組員1名)は、フィリピン・ルソン島の西方約70海里(約130km)の海上で、荒天のため船体が破損して浸水し、航行不能となりました。Y号からの遭難信号を衛星経由で受信した海上保安庁では、フィリピン及び香港RCCに対して情報提供及び捜索救助活動の要請をするとともに、インマルサットEGC放送を通じて付近航行船舶に対して情報提供を行いました。

 また、JASREPに参加している船舶のデータから、最も現場に近い海域を航行しているP号を検索し、海上保安庁から同船に対して救助を要請しました。

 このほか、海上保安庁の巡視船・航空機や米軍航空機を含め、日本、香港及びフィリピンの3か国のRCCが手配した船舶3隻、航空機4機が協力して捜索救助活動を行いました。

 Y号は翌18日、捜索中の香港RCC手配の航空機により発見され、その後、航空機の誘導を受けたP号により無事救助されました。Y号の船長は、大荒れの海の中で沈没しかけたY号の船体に必死につかまり救助を待っていました。P号による救助が、もう少しでも遅れていれば、救助活動は極めて困難になったことと思われます。

 やっぱり、JASREPは大切なんですね。

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2)大規模な海洋汚染事故への対応

国際的な枠組みの構築

 大規模な油流出事故が発生した場合、国境にかかわらず広範囲の沿岸国にその被害がもたらされることもあります。平成9年に日本海で発生したナホトカ号油流出事故がその例ですが、そのほかにも、平成7年のシー・プリンス号事故、平成9年のオーソン号事故のように、韓国領海内で発生した事故の影響で油被害が我が国に及んだものがあります。

 このため我が国は、平成7年10月、国際的な油防除体制の整備を図るOPRC条約に加入したほか、国連環境計画(UNEP)が推進しているNOWPAPに積極的に参画し、関係国が協力して円滑な対応を行うための体制の構築に努めています。このほかにも、韓国やロシアとの間において個別の協力関係を築き、油流出事故発生に備えています。

我が国周辺海域で発生した主な油流出事故


ナホトカ号油流出事故時に油回収作業を行う海上保安官


活動中の国際緊急援助隊

 海上保安庁では、海外の油流出事故対策についても積極的に支援しています。ここで、その一例を紹介します。

 平成9年10月15日、船舶用燃料を満載したキプロス船籍のタンカー、エボイコス号と空船のタイ船籍タンカー、オラピン・グローバル号がシンガポール海峡で衝突し、エボイコス号から重油(推定25,000トン)が流出する事故が発生しました。

 海上保安庁では、シンガポール政府からの要請に基づき、10月17日から11月1日までの15日間、第三管区海上保安本部所属の機動防除隊を中心とする国際緊急援助隊6名を現地に派遣し

  • 現地作業員への油回収作業の指導・助言
  • 浮流油及び漂着油の現地調査
  • 油防除資機材の供与等の援助を行いました。

周辺海域における油防除体制

 サハリン沖合のオホーツク海においては、沖合石油掘削事業(サハリンプロジェクト)が平成11年7月から開始されており、当該プロジェクトに関連した油流出事故が懸念されることから、周辺国の協力体制の必要性はますます高まっています。

1, 2多国間協力体制の構築

 北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)には、日本、中国、韓国及びロシアがこれに参画しています。この計画では、海洋汚染緊急時対応に関する沿岸国の協力体制の整備、海洋汚染の準備及び対応に関する情報交換、地域緊急時計画及び了解覚書の策定等が行われています。海上保安庁は関係省庁と連携の上、これらの取り組みに積極的に参画し、当該海域において油流出事故が発生した際に、関係国が協力して円滑な対応を行うための体制の構築に努めています。

2, 国間協力体制の構築

 NOWPAPでは、多国間による協力体制の枠組みの構築を進めていますが、その枠組みを活用し、実際に事故が発生した場合における迅速かつ有効な協力体制を構築するため、さらに、二国間による油防除当局間の連携強化に努めています。

1, 日韓関係

 韓国との間では、これまで4回にわたり専門家会議を実施してきているほか、ナホトカ号、オーソン号などの油流出事故の際、情報交換を行う等の協力を行っています。また、平成11年には第1回日韓海上保安当局間長官級会合において「日本国海上保安庁と韓国海洋警察庁間の協力について」が署名され、これに基づき、平成11年及び12年には日韓合同救難・防除訓練を実施しました。

[写真] [写真]
日韓合同救難・防除訓練

2, 日露関係

 ロシアとの間ではナホトカ号事故時の対応や専門家会議等を通じて協力関係を築いてきたところですが、平成12年9月のロシア大統領訪日の際、「日本海、オホーツク海並びに日本国及びロシア連邦の沿岸に隣接する太平洋西北部の水域における油汚染の防除のための連絡体制等の協力に関する日本国政府とロシア連邦政府との間の共同新聞発表」が行われ、サハリンプロジェクトに関連する油流出事故の危険性を念頭に置いた日露間の一層の協力強化を確認しました。

 今後とも、サハリンプロジェクトに留意しつつ、ロシア連邦運輸省国家海難救助調整庁との間の連携強化を図っていくこととしています。

 ここで、NOWPAPの機能と仕組みについて、紹介します。

 北西太平洋地域海行動計画(North West Pacific Action Plan:NOWPAP)は、世界に14ある地域海行動計画の1つとして、日本海及び黄海における海洋環境の保全を目的に、平成6年9月、日本、韓国、中国、ロシアの4カ国により採択されました。

 NOWPAPを実施するため、具体的に次の7つのプロジェクトを実施しています。

  1. 環境関係データベースの構築
  2. 各国の環境政策の調査
  3. 環境モニタリング計画の構築
  4. 海洋汚染緊急時対応
  5. 地域活動センターの設立
  6. 海洋、海岸及び淡水域の環境への一般認識の高揚
  7. 陸域起因汚染からの海洋環境保全

 上記プロジェクトを推進するため、地域活動センター(Regional Activity Center:RAC)が各国に設立されています。

  1. データ情報ネットワーク(DIN-RAC)(中国)
  2. 汚染モニタリング(POM-RAC)(ロシア)
  3. 特殊モニタリング及び沿岸環境評価(CEA-RAC)(日本)
  4. 海洋環境緊急時対応(MER-RAC)(韓国)

 また、これらRACの活動を統括し、NOWPAPの本部事務局の役割を行う地域調整ユニット(Regional Coordinating Unit:RCU)を日本(富山)と韓国(釜山)に共同設置する準備が進められています。


うみまる

 ロシアとの間では、共同発表だけでなく、実際に共同での訓練が行われているんです。その様子をレポートします。

 平成13年2月、ロシア連邦運輸省国家海難救助調整庁との間で、日露油防除専門家会議と机上油防除訓練を行いました。

 また、平成13年7月には、北海道紋別沖で、ロシア船艇の参加を得て、大規模流出油事故対策訓練を合同で実施しました。

 これらの訓練を通じて、サハリンプロジェクトに係る事故対応について、日露両国油防除当局間の理解を深めるとともに信頼関係を構築しました。

 こんな努力が災害の際に役に立つわけですね。



机上油防除訓練の模様

大規模な海洋汚染事故への今後の対応

 日本に影響を及ぼす領海外での大規模油流出事故 への対応については、関係国からの事故情報の早期入手など近隣諸国と連携した初動体制の確立が必要なことから、今後とも、諸外国との協力・連絡体制の強化を進めることとしています。

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