U 海上における法秩序の維持
覚せい剤、麻薬等の薬物の乱用は、社会全体の安全を脅かすもので、安心して暮らせる社会を維持していくためには、その蔓延を防ぐことが極めて重要である。特に四面を海で囲まれた我が国では、海外から流入する薬物を水際で阻止することが必要であり、関係機関と連携して取締りに当たっている。
また、国連海洋法条約の趣旨に則り、排他的経済水域において沿岸国として水産資源を適正に管理するため、違法操業を行う外国漁船の取締りを行っている。
これら事犯への対応を始め、我が国の海上における法秩序を維持し、海の安全を守るため、海上犯罪の取締りを行っている。
11年は、旅客船等に対する海上保安官の警乗や約69,864隻の船舶に立入検査を実施した。海上犯罪の取締りについては、刑法犯、薬物・銃器事犯、不法出入国事犯、海上環境関係法令違反の摘発、海難の発生に直接結びつくおそれのある海事関係法令違反や組織的な漁業関係法令違反の取締りを重点事項として実施し、7,729件の海上犯罪を送致するとともに、その違反の態様が軽微で是正の容易な3,019件の行政関係法令違反について、警告措置を講じた(第2−1−5図参照)。
第2−1−5図 法令別送致・警告件数(11年)

1 漁業関係法令違反
(1) 日本人漁業関係
11年の漁業関係法令違反の送致件数は1,204件であり、そのほとんどが無許可操業や区域外・期間外操業等のいわゆる密漁事犯であった。
近年の密漁事犯は、ますます悪質・組織化しており、中には暴力団が関与する大掛かりな密漁も行われている。
また、沖合における密漁は、監視取締りの目が十分には届きにくいことから、禁止区域で操業を行っていながら航海日誌等の書類を改ざんするなど証拠隠滅を図ったり、取締りに当たる巡視船艇等の動向を互いに通報するなど、組織的かつ巧妙に行われる悪質な違反が多い。
これらの密漁事犯は、漁業紛争を引き起こしたり、水産資源の枯渇につながるおそれが強いので、漁業関係者に対する防犯指導を徹底する一方、巡視船艇・航空機による厳重な監視取締りを行い、漁業秩序の維持に努めている。
さらに、地方公共団体、漁業関係団体との間において密漁事犯の情報交換、密漁防止に関する指導・啓発活動への協力など関係機関との連携強化を図るとともに、合同取締りを実施している。
(2) 外国人漁業関係
11年に我が国の領水及び排他的経済水域において、不法操業等により検挙した外国漁船は、28隻で、前年に比べて11隻増加した。(第2−1−1表参照)。これは11年1月に新日韓漁業協定が発効したことに伴い、韓国漁船が、暫定水域等を除く我が国の排他的経済水域内では、我が国の許可を受けなければ操業できなくなったことが原因として挙げられる。今後とも、引き続き外国漁船の不法操業に対して厳正な監視取締りを行う必要がある。
第2−1−1表 外国漁船の監視・取締り状況の推移
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措置等 |
7年 | 8年 | 9年 | 10年 | 11年 | |
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立入検査 |
領水 | 86 | 61 | 84 | 100 | 53 |
| 排他的経済水域 | 18 | 23 | 16 | 11 | 78 | |
| 計 | 104 | 84 | 100 | 111 | 131 | |
| 検挙 | 領水 | 7 | 13 | 23 | 14 | 11 |
| 排他的経済水域 | 8 | 5 | 4 | 3 | 17 | |
| 計 | 15 | 18 | 27 | 17 | 28 | |
| 確認(延べ) | 領水 | 596 | 933 | 1,520 | 2,982 | 2,555 |
| 排他的経済水域 | 4,737 | 11,097 | 17,463 | 11,715 | 23,161 | |
| 計 | 5,333 | 12,030 | 18,983 | 14,697 | 25,716 | |
| (注) | 確認(延べ)は、航行、漂泊及び操業等を行っている外国漁船を海上保安庁の巡視船艇・航空機が視認した隻数である。 |
(中国漁船)
中国漁船は、従来我が国排他的経済水域の全域において、二そうびき底びき網漁船、まき網漁船及びいか釣漁船が操業していた。12年6月1日に新たな日中漁業協定が発効したことに伴い、暫定措置水域等を除く我が国の排他的経済水域内では、我が国の許可を受けなければ操業できないこととなった。
領海等では、12年は4月末までに、「外国人漁業の規制に関する法律」(以下「外規法」という。)違反等により、すでに10隻を検挙している。
(韓国漁船)
韓国漁船については、沖ノ島周辺海域から九州西岸沖に至る日本海側において、不法操業が見られ、中でも対馬周辺海域で多く発生している。11年には、「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」違反で17隻、外規法違反で3隻の計20隻を検挙している。
(台湾漁船)
台湾漁船は、さんご網漁船、はえなわ漁船等が沖縄や奄美大島周辺海域において、また、さんま棒受け網漁船が北海道南東水域において操業しているほか、九州西岸沖においてもさんご網漁船が操業している。11年には、外規法違反で4隻を検挙している。
(ロシア漁船)
ロシア漁船は、大型冷凍トロール漁船及び中型まき網漁船が、母船、仲積船、タンカー等とともに船団を組み、北海道南東沖から千葉県銚子沖にかけての広大な水域において操業していたが、近年は、操業規模が縮小し、数隻が確認されたのみである。
| <事例>
12年4月26日、沖縄県の粟国島南方の本邦領海内において外国漁船が操業中である旨の情報に基づき出動した航空機が同海域において操業中の中国底延縄漁船(160トン、15名乗組み)を発見した。同船は、航空機から発せられた停船命令を拒み逃走を開始したため、航空機から追跡を引き継いだ巡視船が同船を捕捉、船長を外国人漁業の規制に関する法律違反(領海侵犯操業)で現行犯逮捕した。 逃走する中国延縄漁船 |
2 刑法犯
11年の海上における刑法犯の送致件数は1,166件であった。これを罪種別にみると、業務上過失往来妨害事犯が1,011件(86.7%)とその大半を占め、次いで業務上過失致死傷事犯(112件)、殺人及び傷害等の事犯(19件)、業務上失火等の事犯(6件)の順になっている。
(1) 海難事件
船舶の衝突、乗揚げ等の海難が発生した場合は、業務上過失往来妨害や業務上過失致死傷などの刑事責任を明らかにするために必要な捜査を行っている。このうち、衝突していながら相手船に自船の船名等を告げず、また関係機関に対しても衝突事実を通報することなく航行を続けるといったいわゆる当て逃げ事件が、11年は55件発生した。 当て逃げ事件の特徴として、当て逃げされた船は漁船(約60%)が多いことが挙げられるが、これは、漁船は操業中等で見張り不十分により他船の接近に気が付かないことも多いことが一因であると考えられる。また、この場合、漁船の乗組員が死傷することも多く、当て逃げ事件の人身被害者総数19人のうち16人が漁船の乗組員であった。当て逃げ事件は、夜間発生したり、目撃者がいない場合や当て逃げされた船が沈没した場合には、事件の認知までに相当の時間を要するとともに、手掛かりとなる証拠品もわずかであること等により、衝突相手船の割り出しが極めて困難な場合が多いが、巡視船艇・航空機の緊急配備、広域手配、塗料鑑識装置を用いた科学捜査等によって、検挙に努めており、11年においては80%を検挙した。
| <事例>
11年5月11日深夜、石川県能登半島沖合を航行中の大型船が航行中の漁船(6.8トン、2名乗組み)と衝突し、大型船はそのまま逃走、漁船船長が顔面打撲の傷害を負った。 金沢海上保安部及び新潟海上保安部では、直ちに衝突逃走負傷事件として捜査に着手し、逃走した大型船の調査を行った結果、新潟港において船首部に擦過傷のあるシンガポール船籍のコンテナ船(13,272トン、23名乗組み)を発見、遺留塗膜の鑑定を行ったところ、漁船に付着していた大型船の塗料とコンテナ船の塗料が一致したことから、コンテナ船を衝突相手船と特定し、当時の当直者だった三等航海士(ガーナ人)を業務上過失傷害等の容疑で通常逮捕した。 |
また、海難事件の中には、保険金を目当てに故意に船舶を沈没させる場合等もあるので、あらゆる角度から綿密な捜査を行っている。
さらに、近年のマリンレジャーの進展に伴い、プレジャーボート等の海難が跡を絶たない状況にあるため、関係者に対して法令の励行を徹底させるほか、事故が発生した場合は必要な捜査を行っている。
(2) 海上における人身犯
11年の海上における人身犯は、殺人未遂1件、傷害9件で殺人及び暴行事件はなかった。
殺人等の凶悪犯罪には、本邦を遠く離れた洋上で発生する事例も多く、このような場合には、船内の秩序維持、証拠保全、被疑者の引取りなどのため、必要に応じて海上保安官を現地に派遣している。
また、その犯行の動機や原因をみると、狭い船内での長期にわたる単調な生活と過酷な労働によるストレスの蓄積、あるいは外国人漁船員の雇用が進む中での言語、習慣の違いを遠因とした、飲酒のうえでの口論や船内生活上のトラブルが引き金となって犯行に及ぶという事例が多い。
このため、関係団体等を通じて、明るい職場環境づくり、刃物類等凶器となるおそれのある物の保管管理の徹底等を指導している。
3 海事関係法令違反
11年の海事関係法令違反の送致件数は4,028件であった。このうち、プレジャーボート等の小型船舶に係るものが2,920件(72%)と最も多く、次いで漁船(551件)、貨物船(341件)の順になっている。
海事関係法令違反については、無検査船舶の運航、無資格者による船舶の運航、貨物船等の満載喫水線超過載荷、プレジャーボート等の最大搭載人員超過搭載等、特に海難の発生に直接結びつくおそれのある事犯に重点を置き、関係機関と密接な連携を保ちつつ指導取締りを実施している。
年末年始には、帰省、観光による海上旅客が増加することなどから、旅客船等に対し、全国一斉に指導・取締りを行い、海上における法令の励行及び安全の確保に努めている。
4 その他の法令違反
11年におけるその他の法令違反の送致件数は136件で、そのうち電波法違反が85件であった。