第1章 海上治安の維持


T 領海警備等


1 領海警備

 (1) 現   状

 領海警備は、我が国の平和、秩序、安全を害する外国からの諸活動に対して、我が国領海内における主権を確保するために行われるものであり、領海内における外国船舶の無害でない航行や不法行為の監視取締りを任務とする警察活動である。

 海上保安庁は、創設以来、最も重要な業務の1つとして一元的に領海警備に取り組んでいる。11年には、我が国の領海内で操業を行う等の不法行為を行い又は徘徊する等の不審な行動をとった外国船舶1,801隻(うち漁船1,792隻)を確認している。このうち、不法行為を行った1,562隻に対しては、1,547隻を警告のうえ直ちに退去させ、悪質な15隻については検挙した。また、不審な行動をとった239隻に対しては、当該行動の中止を要求し、あるいは警告のうえ退去させるなど必要な措置を講じた。なお、11年の不法行為・不審行動船舶隻数のうち、全体の約97%、1,745隻が尖閣諸島の領海において操業、徘徊、漂泊等を行った中国・台湾漁船である。

 さらに、荒天による避難等で領海内へ緊急入域した外国船舶3,801隻については、海上保安庁への事前通報等の秩序ある入域を指導するとともに、不法入出国、密輸等の不法行為に関与することを防ぐため、動静監視等の警備を実施している(第2−1−1図参照)。

第2−1−1図 不審行動船舶等の隻数の推移

 (2) 尖閣諸島を巡る情勢と対応

 尖閣諸島は、沖縄群島西南西方の東シナ海に位置する我が国固有の領土であり、海上保安庁では、同諸島周辺海域に常時巡視船を配備し、また、定期的に航空機をしょう戒させ、関係省庁と連絡を密にして、外国船舶による領海侵犯、不法上陸等の警備に当たっている(第2−1−2図参照)。

第2−1−2図 尖閣諸島魚釣島周辺図

 同諸島を巡る問題は、昭和43年、日本、台湾、韓国の海洋専門家等が、国連アジア極東経済委員会の協力を得て東シナ海海底の学術調査を行った結果、東シナ海の大陸棚に石油資源が埋蔵されている可能性があることを指摘したことが発端となっている。

 昭和46年以降、中国、台湾が公式に領有権を主張し始め、4年2月、中国が同諸島を中国の領土として明記した法律を施行し、11年2月、台湾が同諸島を含んだ領海基線を公告した。

 8年7月からは、台湾、香港等で「保釣活動」と呼ばれる領有権主張の活動が活発化した。同年8月以降、抗議や報道目的で同諸島領海内に台湾、香港の抗議船が侵入する事案が多発し、その形態は、活動家が凶器の携行を表明するなど過激化・複雑化の様相を呈しており、今後もこのような抗議活動は続くものと考えられる。

 海上保安庁では、このような事案に対しては全国から巡視船艇・航空機を動員するとともに、関係省庁との連携を図りつつ、今後とも不測の事態が生じないよう細心の注意を払いながら万全な体制で領海への侵入を排除する等の警備活動を行っていくこととしている。

 また、同諸島周辺海域では、台湾漁船は周年にわたり、延縄・一本釣り等の漁法により、さめ、まぐろ、とびうお等の採捕を目的として、中国漁船は例年2月から5月頃にかけて、底引き網の漁法によりかわはぎ等の採捕を目的として、多数操業している。

 11年には、同諸島領海内において、不法操業を行い又は漂泊・徘徊等の不審な行動をとった中国漁船1,548隻、台湾漁船197隻を確認し、巡視船により警告のうえ領海外に退去させた。

2 外国海洋調査船に対する警備の現状

 我が国周辺海域では、海洋開発に対する各国の関心の高まりや海底資源開発技術の進歩等を背景として、外国による海洋調査活動が確認されており、特に、中国は、東シナ海等において、海洋調査船等により海底資源調査活動等を頻繁に行っている。

 我が国は、国連海洋法条約等に基づき、我が国の大陸棚及び排他的経済水域において、外国が海底資源調査等を行うことは我が国の同意がない限り認めないこととしている。このため、海上保安庁では、我が国が主権的権利及び管轄権を有する大陸棚等に係る海域において、外国海洋調査船等に対し巡視船艇・航空機により厳重な追尾監視を行い、我が国の同意がないものに対しては、現場海域において中止要求を行うとともに、外務省等関係機関に速報する等により対処している。

 最近の5か年について、同海域における外国海洋調査船等の確認状況をみると、8年の22隻、10年の19隻、11年の38隻(過去最高)が目立っている。(第2−1−3図参照)。

第2−1−3図 外国海洋調査船等の確認状況の推移

 特に、これらの確認隻数のうち、中国海洋調査船の占める割合が高く、11年は、過去最高の33隻を確認し、うち30隻にケーブルの曳航、観測機器の投入、反復航走などの特異な行動を認め、中には我が国の領海内に侵入して調査活動を行った事案も発生している(第2−1−4図参照)。12年においても6月末日現在、中国海洋調査船12隻を確認し、その全てに特異な行動を認めている。

第2−1−4図 中国海洋調査船の確認状況

 これらの中国海洋調査船の調査活動に対しては、これを規制する国内法がないこと等のため、強制的な措置をとることができず、事実関係について外務省等関係機関に速報するとともに、該船が我が国排他的経済水域から退去するまで巡視船艇・航空機により厳重な追尾監視・調査活動の中止要求を行った。

3 我が国漁船の保護

 (1) 竹島周辺海域

 日本海南西部に位置する竹島は、韓国が昭和29年から灯台の用に供する構造物等の施設を建設するとともに、警備隊員を常駐させて占拠を続けており、かつ、艦艇にて常時竹島周辺海域の警戒を行っている。

 海上保安庁は、竹島問題は外交ルートを通じて平和的に解決を図るべきであるという従来からの政府の方針に沿って、我が国漁業者の安全を確保するという見地から竹島周辺に、常時、巡視船を配備し、監視するとともに被だ捕等の防止指導を行っている。

 (2) 北海道周辺海域におけるだ捕事件

 11年のロシアによる日本漁船のだ捕件数は10隻(84人)で、うち7隻は北方四島周辺海域においてだ捕されたものである。12年に入り6月末現在では3隻(59名)のだ捕が確認されている。

 特に北方四島周辺海域においては、元年以降47隻(12年6月末現在)の日本船舶がロシア(旧ソ連)にだ捕されている。当該海域においてロシアは、10年には「ビオ(生物資源)98」、11年には「ミンタイ(スケトウダラ)99」、12年には「プチーナ(漁期)2000」と称する密漁取締りを実施しており、違反漁業に対しては、武器の使用も辞さないという強硬な姿勢を示していることから、引き続き厳しい取締りが予想される。

 一方、10年2月、日ロ政府間において「日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定」が署名され、同年10月から、同協定により指定された海域内での操業が開始されて以降は、12年6月末現在まで当該海域においてロシア側よるだ捕は発生していない。

 海上保安庁では、だ捕の発生が予想される北海道東方海域のロシア主張領海線付近等に、常時巡視船艇を配備し、漁船等の監視警戒に努めている。

 (3) その他の海域におけるだ捕事件

 新たな日韓漁業協定に関し、11年1月22日「漁業に関する日本国と大韓民国との間の協定」が発効して以来、韓国によりだ捕された日本漁船は、4隻(8名)で、いずれも対馬周辺海域において韓国漁業水域内での操業を理由にだ捕されている。

 なお、韓国にだ捕された漁船及び乗組員は、全員帰還している。

4 不審船事案への対応

 (1) 不審船事案

 日本周辺海域には、日本漁船に偽装し、あるいは夜陰に乗じて不審な行動をとる国籍不明の高速船が出没しており、2年には福井県の海岸に本邦への密入国を企てたと思料される無人の小型船が漂着した事案が発生している。また、昨年3月には能登半島沖における不審な漁船に関する情報を海上自衛隊から入手し、巡視船艇・航空機により長時間追跡した事案も発生している。このため海上保安庁では関係機関と連携をとりつつ、出没する可能性が高い海域に重点を置いて巡視船艇・航空機により警戒に当たっている。

 

<事例>

能登半島沖不審船事案

 11年3月23日午前11時頃及び午後1時頃、海上自衛隊から能登半島沖の不審な漁船に関する情報を入手した。海上保安庁では、このうちの第二大和丸については兵庫県浜坂沖で操業中であることを、また第一大西丸については漁船原簿から抹消されていることを確認したため、情報のあった同船名の漁船2隻は不審船であると判断した。

 これらの確認作業と並行して、現場海域に巡視船艇15隻、航空機12機を動員し不審船2隻を追跡、停船命令を繰り返し発したが、両船は、これを無視して速力を上げて逃走を続けたため、巡視船艇により威嚇射撃を実施した。
 しかし、両船はこの威嚇射撃をも無視して高速で逃走を続けたため、巡視艇については航続距離の問題から追跡を断念し、巡視船については速力の問題から次第に不審船から引き離され、23日午後9時21分までに両船は巡視船のレーダーから消滅した。

 海上保安庁では、これら状況を内閣、防衛庁等の関係省庁に逐次連絡し、これを受けて政府としての対策が検討された結果、同月24日午前0時50分、自衛隊法第82条に基づく海上警備行動が発令された。

 その後も、海上自衛隊の護衛艦等とともに巡視船により不審船の追跡を継続したが、防衛庁から2隻の不審船は24日早朝までに我が国の防空識別圏を出域したとの情報を入手したことから、巡視船による追跡を断念した。以後、巡視船による周辺海域の警戒を実施したが、不審船の発見には至らなかった。

 結果として、不審船を停船させるには至らなかったが、海上保安庁がとりうる可能な限りの措置を講じたところである。

 

 (2) 不審船事案への対策の強化

 不審船事案は、いつ再発するかもしれず、これに対しては、今後とも政府が一丸となって対処することが重要であるという認識の下、能登半島沖不審船事案に対する一連の活動における教訓・反省点を整備することにより、今後の我が国の安全の確保及び危機管理に万全を期すため、内閣官房を中心に関係省庁において検討がなされ、昨年6月4日の関係閣僚会議において、「能登半島沖不審船事案における教訓・反省事項について」が了承された。

 本とりまとめは、『不審船への対応は、警察機関たる海上保安庁がまず第一に対処し、海上保安庁では対処することが不可能若しくは著しく困難と認められる場合には、海上警備行動により自衛隊が対処するとの現行法の枠組みの下、必要な措置を検討』することを基本的な考え方としている。具体的な内容は、@海上保安庁及び防衛庁は、不審船を視認した場合には、速やかに相互通報すること、A状況により官邸対策室を設置するとともに、必要に応じ関係閣僚会議を開催し、対応について協議すること、B巡視船艇の能力の強化など海上保安庁等の対応能力の整備を図ること、C海上保安庁及び自衛隊の間の共同対処マニュアルの整備など具体的な運用要領の充実を図ること等となっている。これを踏まえ海上保安庁では、昨年3月の事案発生後から防衛庁等との間においてより迅速な情報連絡を実施している。また、監視体制強化、対応能力整備については、夜間監視機能強化型ヘリコプター2機(うち1機については、12年4月に整備済)や、不審船を捕捉するのに十分な高速性を有し、武器、防御機能を強化した高速特殊警備船3隻の整備等を進めているほか、既存の高速小型巡視船の配備の見直しを行った。

 また、自衛隊との連携強化の観点から、防衛庁と海上保安庁との間で、共同訓練を経て不審船に係る共同対処マニュアルを昨年12月に策定した。

表紙へ戻る 次へ進む