2 グローバル社会の舞台裏


 (1) 薬物・銃器の密輸


@ 続発する大量覚せい剤の密輸入

 ア 薬物・銃器問題の深刻化

 覚せい剤、麻薬等の薬物の乱用は、使用する人の健康を害し、生活を破壊するばかりでなく、薬物を手に入れるための行為や幻覚による行為が犯罪に結びつくことが多く、また、薬物の流通経路に暴力団が関与しその資金源となるなど、社会全体の安全を脅かすものである。

 国や地域により、主として乱用される薬物の種類は異なるが、現在、世界で最も乱用されている薬物は、大麻である。しかし、最近の傾向として、覚せい剤が世界的に流行の兆しを見せているほか、ヘロイン等の麻薬をはじめ、LSD等の幻覚剤、睡眠剤、精神安定剤等の向精神薬等についても、各国で乱用されており、これらの薬物の乱用は若年層への拡がりも見せるなど、世界中で深刻な問題となっている。

 アジア地域における最近の薬物押収状況をみても、依然として大麻の押収量が全体の半数以上を占めているものの、覚せい剤の押収量が急激に増加している傾向にある(第1−2−1図参照)。

第1−2−1図 アジア地域における薬物押収状況(全押収量の薬物別構成比)

 我が国においては、戦後蔓延したヒロポン時代(第一次覚せい剤乱用期)、昭和59年を検挙人員のピークとする「第二次覚せい剤乱用期」以来の「第三次覚せい剤乱用期」として非常に深刻な問題となっている(第1−2−2図参照)。

第1−2−2図 覚せい剤事犯検挙者の年次別推移(昭和25年〜平成11年)

 また、銃器を使用した凶悪な事件が続き、一般市民の被害が相次ぐなど銃器に関しても治安上極めて憂慮すべき事態となっている。

 イ 相当量の覚せい剤が本邦に流入

 12年4月に公表された統計数理研究所の調査結果(覚せい剤乱用者総数把握のための調査研究(2))によると、我が国における覚せい剤乱用者数は185万人と推定されている。

 また、国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部による調査結果(薬物使用についての全国住民調査)によれば、11年の覚せい剤生涯経験率(これまでに、1回でも乱用を経験したことがある者の率)は、国民の0.4%、43万±21万人と推計されている。このように、乱用者数の推計値は調査機関によってばらつきがあるが、少なくとも数十万人から百万人規模で乱用者が存在すると推定されている。仮に、これらの覚せい剤乱用者が2日に1回(1回0.03〜0.04グラム)覚せい剤を使用するものと仮定すると、我が国の覚せい剤消費量は、年間数トンから10数トンと推定され、相当量の覚せい剤が、取締りの網をすり抜けて流入しているものと推定される。

 第一次覚せい剤乱用期においては、混乱した社会情勢のもと、軍用の覚せい剤が大量に放出され、一般の医薬品としても市販されたことにより、乱用が蔓延していったのに対し、第二次、第三次覚せい剤乱用期に使用された覚せい剤は海外から流入してきたものがほとんどである。現在、国内において流通している麻薬・覚せい剤の大半は、海外から海上ルートによって密輸入されていると考えられる。

【覚せい剤の国内流通に関する一考察】

 厚生省の統計による、グラムパケ(2〜3回分)当たりの覚せい剤末端価格と押収量を比較すると、最低価格に顕著な変化はみられないが、押収量に連動して最高価格が高騰する傾向を示している。これは、供給量の増減に対して、覚せい剤の質の調整により最低価格を維持することが可能である一方、質を維持する取引においては需要と供給の関係が如実に価格に反映されるためと考えられる。

 ウ 大量覚せい剤密輸入事犯の続発

 警察庁の統計によると、我が国における11年の覚せい剤押収量は、1,975.9キログラム(約2トン)であり、記録的な大量押収量となっている(第1−2−3図参照)。また、押収量の約9割が、大量押収事件(1件で50kg以上を押収したものをいう。)によるものである。11年10月に摘発した鹿児島県黒瀬海岸における覚せい剤密輸入事件では、一事件としての押収量が史上最高の約564.6キログラムを記録するなど、大量の密輸入事犯が続発している。なお、11年に海上保安庁が関与した主な事件は、第1−2−1表のとおりである。

第1−2−3図 押収量の年次推移

第1−2−1表 海上保安庁関与事件(押収量1kg以上)

発 生 月 場所 薬物の種類 押収量 物件仕出地 船舶国籍
1月 浜田 覚せい剤 101kg 中国 ホンジュラス
4月 鹿児島 大麻樹脂 5.5kg タイ バハマ
4月 覚せい剤 100kg 北朝鮮 中国
5月 鹿児島 大麻樹脂 27.6kg 香港 オランダ
8月 伏木 生アヘン 2.5kg ロシア ロシア
10月 鹿児島 覚せい剤 564.6kg 北朝鮮 台湾
12月 酒田 乾燥大麻 2.4kg 不明 カンボジア
※ 全て、警察、税関との合同摘発による。

 全押収量の約75%は、船舶を利用した密輸入事件である。従来船舶利用の大量覚せい剤密輸入事犯は、コンテナを利用して東京、横浜等の大都市圏の港に持ち込まれる事例が多かったが、11年には、瀬取りや貿易船内に隠匿する等の方法で地方港や港がない海岸部からの陸揚げを企図した事犯も見受けられる。

 密輸の手段としては、洋上での漁船等による瀬取り(積替え)、コンテナ貨物等への隠匿などが行われており、巧妙化している。また、覚せい剤の仕出し国は、第二次覚せい剤乱用期には韓国、台湾からの密輸であったものが、第三次覚せい剤乱用期にはその多くが中国、北朝鮮からとなっている(第1−2−4図参照)。

第1−2−4図 平成11年覚せい剤押収量の仕出地別割合(押収量1kg以上を対象)

 エ関係取締機関との連携の必要性

 このような薬物の密輸事犯の摘発のためには、事前の取引情報の収集が極めて重要であり、海上保安庁では、船舶や海事・漁業関係者等の海に関係の深い情報を中心に情報収集を行っている。また、暴力団等の犯罪組織や国内の密売組織、貿易関係の情報等については、警察、税関、麻薬取締事務所等の関係取締機関との情報交換を行うことにより、情報の共有化を図り、摘発に向けて協力している。

 薬物が流出するおそれの大きい地域から入港してくる船舶に対しては、綿密な立入検査を行い、船内に薬物が隠匿されていないかどうかを検査しているが、この際も、税関等の機関と共同で実施することも多い。

 また、密輸容疑船がある場合には、関係取締機関が合同の捜査本部を設置して、協力して対処する体制をとっている。海上保安庁は、多数の巡視船艇、航空機の機動力を生かして、洋上での監視、容疑船の発見に努めており、密輸事件を摘発する際には、合同で捜査本部をおいて、背後関係を含めた全容解明に向けて、協力して捜査を行っている。

 11年に摘発した大量押収事件の多くは、関係取締機関が当初から緊密に連携して対応した事件であり、連携の強化による成果であると言える。

A 薬物・銃器の密輸を阻止するために

 既述したとおり、覚せい剤をはじめとする薬物の密輸は、銃器密輸とともに、深刻な問題となっている。特に覚せい剤については、11年に海上保安庁が関与した摘発量が785.6キログラムと、過去最高の数字を記録しており、これらの流入を水際で阻止することは極めて重要な課題と考えている。

 このため、海上保安庁では、

等の措置を講じている。

 また、海上保安庁では、9年1月に設置された内閣総理大臣を本部長とする「薬物乱用対策推進本部(副本部長:運輸大臣ほか)」及び7年9月に設置された内閣官房長官を本部長とする「銃器対策推進本部(本部員:海上保安庁次長ほか)」において関係省庁とともに政府一丸となって薬物・銃器対策に取り組んでいる。悪質、巧妙化する薬物・銃器の密輸事犯の摘発のためには警察、税関等の関係取締機関との協力・連携が重要であることから、

等により、関係取締機関との協力・連携の強化を図っている。

 さらに、外国取締機関との協力・連携を強化しており、特に本年1月には、「2000年薬物対策東京会合」の一環として、東京及び横浜において「薬物海上取締官養成セミナー(MADLES2000:Maritime Drug Law Enforcement Seminar2000)」を開催し、東・東南アジアの9か国からの参加のもと、UNDCP(国連薬物統制計画)の「海上薬物取締トレーニングガイド」に基づく実習や各国の情報交換及び域内協力について検討を行った。その他、JICA(国際協力事業団)が行う専門家派遣事業の活用、ロシア・中国等周辺諸国の取締当局との情報交換の場の拡充等による連携を推進している。

 今後とも、国内外の関係機関と更に連携を強化し、引き続き薬物・銃器の水際での流入阻止に向けて積極的に対策を講じていくこととしている。


 (2) 密   航


@ ますます巧妙化する密航

 ア 密航が内包する問題点

 現在、我が国には、正規に入国した後滞在期間を過ぎてもそのまま我が国に不法に残留している、いわゆるオーバーステイといわれる不法残留外国人が約25万人いるといわれている。また、これらの者以外に我が国に不法な手段で入国し、在留している、いわゆる密航者と呼ばれる外国人が相当多数いると考えられている。こうした、密航者を含む不法滞在者が、我が国における外国人による犯罪の温床になっているともいわれており、我が国の治安維持等の観点から問題となっている。

 イ 密航が発生する背景

 平成に入ってからの密航は、ほとんどが我が国と周辺諸国との所得格差を背景とした不法就労を目的としている。不法就労先は、主として日本人が嫌ういわゆる「3K」職場である。また、集団密航が多発した背景には、国際的な密航請負組織や暴力団等の犯罪組織が密航に関与し、組織の資金を得るためにビジネス化したことが一因にある。 これらの密航請負組織は、密航者の募集、運搬、受入れ等をそれぞれ担当するグループに細分化されており、我が国での受入組織は、密航者に対して仕事を斡旋したり、生活するための住居を用意するなどしている。また、最近では我が国に密入国できた後に母国の家族等に連絡を取って密航料を支払うという、いわゆる成功報酬制度がとられたことも密航を助長している。さらに、こうした成功報酬制度がとられたとはいえ、密航者の中には、密航のための準備金を既に借金等により工面している者が多く、密入国に失敗して母国に戻ったとしても、借金等を返済するために再び密出国を企てる状況になっている。

 ウ 密航の形態と最近の手口

 摘発された大量の集団密航事犯では、船舶を使用した事犯が多い。これは、船舶による密入国が一度に多量の密航者を運びやすいことから、ビジネスとしては儲けが多いことに起因しているものと思われ、特に中国人による集団密航事犯が多い(第1−2−5図参照)。

第1−2−5図 密航者(不法入国者)国籍別検挙人員

 我が国への船舶を利用した密航の形態には、

(ア) 中国船等を密航船として仕立てて直接本邦へ密航するもの
(イ) 本邦沖合で中国船等から日本船に乗り換えて密航するもの
(ウ) 韓国沖合で中国船等から韓国漁船に乗り換えて密航するもの
(エ)貨物船等により密航するもの
・船内に巧妙に設置された隠し部屋に潜伏してくるもの
・船内の倉庫や乗組員の居室等に潜伏してくるもの
・コンテナに潜伏してくるもの
・偽変造の船員手帳等を使用するもの

等がある(第1−2−6図参照)。

第1−2−6図 中国人集団密航の主なルート

 海上保安庁が11年末までに取り扱った密航事件では、密航船を仕立て直接我が国へくる密航は10年前後から減少し、代わりに隠し部屋を利用したものや中国船等から韓国漁船に乗り換えてくるものなどが増加傾向にある。

 偽変造の船員手帳使用については、10年ころがピークであり、密航者を運搬してくる船舶の乗組員(手引き者)を含めて48事件中、9件あった。

 特に、営利目的の集団密航事犯においては、その手口も巧妙であり、取締機関による摘発を逃れるため様々な工作をしている。例えば、貨物船等による潜伏密航の場合には、船内の貨物倉等を改造し隠し部屋を作り、その入り口には偽装の配管等を設置する等してカムフラージュするなどしていた事例や、洋上で会合して密航者を別の船に乗せ、我が国に輸送する、いわゆる「瀬取り」といった手口の場合には、正確な位置を測定できるGPSを使用して会合場所を設定し、会合時には灯火等を利用した合図を決めていたり、上陸時には携帯電話を利用して連絡を取り合うなどして深夜人気のない漁港等に上陸するといった事例がある。また、最新の印刷技術等を取り入れ、一瞥しただけでは、その真贋の判断が困難な偽変造旅券等を使用した事犯も見受けられる。

 エ密航事犯の減少

 11年に検挙した密航事件は31件、検挙者は密航者(不法入国者)387名、手引者等76名の計463名である。公海上で密航者を乗せている船舶を発見し、中国等の外国関係機関に引き継ぐなどして、我が国への密航を未然防止したものは6隻、571名となっている。12年は、6月末までに検挙した密航事件は6件、検挙者は密航者(不法入国者)16名、手引者等5名の計21名であり、現在のところ大幅に減少している。

 11年は前年に比べ件数は17件(35%)減少、密航者は56名(17%)増加、手引者等は62名(45%)減少し、12年は昨年の同期比で件数は18件(75%)減少、密航者は358名(96%)減少、手引者等は64名(93%)減少している(第1−2−7図参照)。

第1−2−7図 不法入国事件検挙件数(海上保安庁取扱い)

備考1 「未然防止」は、我が国の領海外で発見、巡視船により追尾、中国等相手国の領海周辺海域において官憲に引き継いだもの等である。
備考2 12年は6月30日現在

 11年5月までは前年を上回る勢いで事件が多発したが、11年後半には密航事件は散発化し前半に比べ大幅に減少し、現在に至っている。

 警察庁、法務省及び当庁の資料を総合すると密航事犯の減少原因として、

(ア) 我が国への最大の密航者送出国である中国が、11年末頃から不法出国の予防啓発活動や取締りを強化するとともに、不法出国者に対する処罰を強化し、その実績が現れてきたこと
(イ) 密航先を我が国より景気の良いアメリカ、オーストラリア及び経済の回復傾向にある韓国等へ分散化したこと
(ウ) 密航の手口がより摘発されにくい正規の入国を装う偽変造旅券等の形態に変わり、航空機利用の不法入国事犯が増えていること

等が考えられる。しかしながら、密航の最大の理由である所得格差が依然として存在すること、密航に介在する国際的密航請負組織「蛇頭」が依然として存在すること等から引き続き予断を許さない状況にある。

A 密航を阻止するために

  ア 情報入手の重要性

 近年見受けられるように、船内に巧妙に作られた隠し部屋を使用する事犯や、取締りの網の目をくぐり抜け、人目に付かないように密航者の瀬取りや上陸が行われている事犯などを摘発するに当たっては、確度の高い、迅速な事前の情報の入手が重要であり、それを元に対応する必要がある。

 また、事前に情報を入手するためには、国内外の関係機関との緊密な連携が重要であり、今後ますます、情報の共有化を図っていくことが必要である。

  イ 今後の対策

 組織的、計画的に行われ、ますます悪質・巧妙化する密航事犯を取り締まるため、従来からの海事関係者や沿岸住民の方々などに対する情報提供依頼に加え、新たに導入された局番なしの「118番」(当庁緊急通報番号)の活用を促進し、より幅広い層の国民からの情報入手に役立てていくこととしている。また、本邦周辺海域における監視取締りの実施、ぐ犯国からの来航船に対する徹底した立入検査の実施等を更に充実させるため、

・ 電磁波等を使用した密航者探索資器材の充実
・ 不審な船舶の早期発見のための沿岸監視システムの充実
・ 偽変造旅券等の鑑定能力の充実・強化

を図ることとしている。

 また、密航事犯の未然防止、取締りについては、国内の関係機関との緊密な連携とともに外国取締機関との連携・協力も重要である。そこで、海上保安庁では、我が国への密航者又は密航手引者の多くを占める中国、韓国へ、9年以降、数度にわたり職員を派遣し、不法出国者の取締り強化を申し入れるとともに、両国の海上取締機関と定期的な協議を実施し、密航の未然防止に関する情報交換を行うなど連携強化に努めている。また、従来から緊密な協力関係にある米国の海上取締機関等とも密航の未然防止に関する情報交換等を行い国際的な連携・協力関係の強化を推進している。

 


 (3) 海   賊


@ 多発・広域化する海賊問題

  ア 東南アジア海域の平穏を目指して

 我が国は、原材料を海外から輸入し、製品を海外に輸出する加工貿易国である。また、食料やエネルギーなどの資源の大部分を海外からの輸入に頼っている。貿易取扱量の約99%(輸送量ベース)は、海上輸送により行われており、我が国にとって、海上輸送ルートの安全確保は必要不可欠なものといえる(第1−2−2表参照)。

第1−2−2表 主要資源海外依存度

鉄鉱石 穀類 豆類 牛乳・乳製品 全エネルギー 原油
100.0 ※1 99.9 ※2 61.0 ※3 95.0 ※3 28.0 ※3 81.5 ※4 99.7 ※4
(注) ※1 鉄鋼統計要覧(7年数値)
※2 鉱業便覧(9年数値)
※3 ポケット農林水産統計(8年数値)
※4 ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES

 近年、海賊及び船舶に対する武装強盗事件(以下単に「海賊」という。)は世界的に増加の一途をたどっている。国際海事機関の資料によると7年には132件であったものが、11年には309件と約2.4倍に増加している。このうち半数以上がマラッカ・シンガポール海峡及びインドネシア周辺海域を中心とする東南アジアで発生している。

 マラッカ・シンガポール海峡は世界有数の国際海峡であり、我が国にとっても重要な輸送ルートとなっている。運輸省が実施した同海峡の通航実態調査によると、7月現在、この海峡を航行する1,000GT以上の船舶のうち、我が国の船主が運航管理している船舶は約7,000隻(通航量全体約41,800隻の16.9%)に上っている。

  イ 関係国連携の必要性

 最近では、11年10月に発生したアロンドラ・レインボー号事件をはじめとして、武器を所有し、乗組員を放り出して船体ごと奪い取るような被害も発生しており、手口が凶悪化している。アロンドラ・レインボー号事件においては、船体は、インド西方海域を航行中のところをインドコーストガード等により捕捉されたものの、積載していた積荷のアルミインゴット約7千トンが半分以下となっていた。また、船名と国籍は変えられていた。さらに、アロンドラ・レインボー号の積荷の一部と思われるアルミインゴットは第三国のフィリピンで発見された。

 こうした例にみられるように、消息不明となった船舶や積荷が後日第三国で発見されたり、船名、国籍が変えられている状況等から考えると、襲撃事件の影には、強奪した船の売却、船籍の変更、積荷の売却等を行う国際的なシンジケートが存在することが推察される。

 このように海賊は、国際的なシンジケートと関わっていると思われ、犯行後の逃走範囲も広域化していることから、一国のみでの海賊対策には限界があり、関係国の連携が緊急に求められている。

A 海賊問題を解決するために

 アジアでの海賊は、公海上だけではなく、領海内または群島水域内で発生し、同時に複数の国にまたがる複雑な事件が多い。また、背景には国際的な犯罪シンジケートが関係していると推察される。このような国際的な問題に対応するためには、関係国間の協力・連携が不可欠である。

 このため、海上保安庁は、外務省及び運輸省とともに12年4月27日から29日、アジアの15の国と地域から各国において海上における捜索救難や治安の維持を担当している海上警備機関26機関のトップ等が東京において一堂に会する「海賊対策国際会議(海上警備機関責任者会合)」を開催した(注) 。会議では、海賊対策のための国際的な連携・協力の必要性及び今後の具体的な連携・協力の分野について活発な意見交換が行われ、その結果、各参加者の熱意と努力により、今後の各国海上警備機関の取組及び国際的連携・協力の指針となる「アジア海賊対策チャレンジ2000」が採択された。これは、各国海上警備機関間の迅速な情報交換体制の確立、海賊の取締り等における連携・協力体制の構築のほか、各国に対する各種支援方策についての検討をその内容としている。


注 このほか、各国の海事政策当局等による会合が開催され、海賊対策の柱として「東京アピール」がとりまとめられるとともに、官民の海事関係者が取り組むべき具体的な行動指針として「海賊対策モデルアクションプラン」が策定されている。

 さらに、今回の会議において、連携・協力の具体化のため、海上保安大学校等への留学生の受入れ、各種セミナーの開催といった人材育成への協力、巡視船の相互訪問や合同訓練の実施、専門家会合の継続的な開催、資器材等の整備への支援を海上保安庁から提案し、各国から歓迎された。

 今回の会議を契機に各国の関係機関間の連携・協力が推進されることは、海賊のみならず、密航・密輸等の海上を舞台とするあらゆる国際犯罪対策につながるものであることから、海上保安庁では、アジアの海上警備機関との連携・協力を積極的に推進することとしている。


 (4) 国際情勢の変化に連動する業務ニーズ


@ 国際情勢の不安定要因に対する備え

 現在の国際情勢は、冷戦の崩壊後、国家間の紛争よりもむしろ民族間の紛争や経済破綻などの不安定要因によって地域の安全や治安が維持できない状況が発生している。これらに我が国の国民が巻き込まれるおそれがあり、こういった事態に対して、国民の生命の安全を守る必要性が高まっている。

 11年8月には、東チモールで、インドネシア共和国政府が提案した東チモールにおける特別な自治に関する枠組案に対する直接投票が実施され、自治提案拒否が有効投票数の78.5%を占めた。直接投票の実施後、東チモール西部で国際連合東チモール・ミッションの現地職員等を標的とした襲撃事件が続発する等、東チモールの治安状況は急激に悪化し、邦人を含め、多くの外国人が東チモールからの退避を余儀なくされた。このような事態に際して、海上保安庁では、邦人等の輸送に万全を期すため、外務省の要請に応じ巡視船を派遣し、デイリ沖に待機させた。

 海賊事件が多発しているマラッカ・シンガポール海峡及びインドネシア周辺海域については、我が国に必要な資源・エネルギーの大半を輸送する船舶航行ルート上にあり、他の海域に比して日本関係船舶が多数航行していることから、当該海域における海賊事件の多発は、日本関係船舶の安全確保に重大な影を落としている。マラッカ・シンガポール海峡周辺海域が地理的にも近接していることを踏まえると、海賊等の問題に対しては、我が国がイニシアティブをとって積極的に貢献する必要性が高まっている。

 海賊行為は人命・財産に危害を及ぼす犯罪行為であることから、海難救助、犯罪の予防・鎮圧等の海上における安全の確保を任務としている海上保安庁が対策を講ずることを、国内外から広く求められている。海賊対策国際会議の開催をはじめとして国際的な枠組みの構築が醸成されつつある中、海上保安庁の果たすべき役割は大きいものと思われる。

 日本周辺海域には、日本漁船に偽装し、あるいは夜陰に乗じて不審な行動をとる国籍不明の高速船が出没している。2年には、福井県の海岸に本邦への密入国を企てたと思料される無人の小型船が漂着した。また、11年3月には、能登半島沖の日本海において、我が国の漁船に偽装した2隻の不審船が確認された。この事件において海上保安庁は、不審な漁船に関する情報を海上自衛隊から入手後、直ちに巡視船艇・航空機を出動させ、不審船を長時間追跡し、威嚇射撃を行った。領海警備を任務とする海上保安庁に対して、より的確に領海警備を遂行することが強く望まれている。

 不審船に対する領海警備の強化策としては、関係閣僚会議で了承された「能登半島沖不審船事案における教訓・反省事項について」を踏まえ、昨年12月には、防衛庁と海上保安庁との間で「不審船に係る共同対処マニュアル」を締結したほか、高速特殊警備船の整備を行うとともに、関係省庁と連携をとりつつ、不審船が出没する可能性の高い海域に重点を置いて巡視船艇・航空機により警戒に当たっている。

 また、テロ等への的確な対応のための特殊警備隊や、転覆海難といった特殊海難等の高度な救助技術を要する海難等への的確な対応のための特殊救難隊を、常時即応できる体制を維持している。

 こうした業務ニーズに的確に対応するため、危機管理体制の充実をはじめとして、巡視船艇・航空機の能力強化等に取り組んでいる。

A 領海や資源を守る

 「海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)」(以下「国連海洋法条約」という。)の締結に伴い、関係法令を整備し、直線基線、接続水域及び排他的経済水域等を設定したことにより、内水、領海及び接続水域を合わせた面積は、従来の内水及び領海の水域の約2倍(我が国国土面積の約2倍)に拡大し、排他的経済水域の面積は、従来漁業取締りを行ってきた水域の約1.15倍(我が国国土面積の約11倍)に拡大した。また、日中、日韓の新しい漁業協定の締結など新たな国際的な枠組みが構築され、接続水域における密入国事犯等の防止、排他的経済水域における外国海洋調査船の監視等、海上保安庁に求められる業務ニーズは大幅に増大した。

 領海及び排他的経済水域における外国船舶に対しては、広大な海域の監視に適している航空機による監視取締りを強化している。また、新日韓・新日中漁業協定の発効後は、韓国・中国漁船が多数操業することが予想される海域の主要な漁場に重点を置いて、巡視船艇・航空機により韓国・中国漁船の監視取締りを行っている。

 尖閣諸島を巡っては、我が国の排他的経済水域の設定に伴う漁業活動への影響や領有権問題に対する不満から、台湾・香港等で「保釣運動」と呼ばれる領有権主張の活動が活発となり、尖閣諸島海域をはじめとして抗議行動が繰り返されている。このため、尖閣諸島周辺海域に、常時巡視船を配備し、また、定期的に航空機をしょう戒させ、関係省庁と連絡を密にして、領海侵犯・不法上陸の排除等に当たっている。

 また、海洋開発に対する各国の関心の高まりや海底資源に関する権益獲得等の動きは、海底資源開発技術の進歩等を背景として、特に我が国の大陸棚や排他的経済水域を含む東シナ海において活発化しており、中国海洋調査船が頻繁に確認されるようになった。

 東シナ海等における中国海洋調査船の調査活動に対しては、これを規制する国内法がないこと等から、強制的な措置をとることができず、事実関係について外務省等関係機関に速報するとともに、当該船舶が我が国排他的経済水域から出域するまで、巡視船・航空機により厳重な追尾監視・中止要求を行っている。

 海洋環境の保全についても、国連海洋法条約が発効したのを受けて、領海及び排他的経済水域における外国船舶からの油等の違法排出事犯の監視・取締りを行っているところである。国連等においては、さらに、廃棄物等の投棄に関する規制の強化や船舶による大気汚染の軽減など、新たな取り組みが検討されており、今後、的確な監視取締りを実施するための手法などについて検討を進めることとしている。

 また、有害廃棄物の国際間移動を規制する条約(バーゼル条約)の発効により、医療廃棄物やPCB含有廃棄物等、国内において処理が社会問題化している有害な廃棄物を国外に違法輸出する事犯の増加も予想される。このため、監視・取締りに関して、関係省庁と連携した枠組みづくりに積極的に参画し、取締機関として関係行政機関との連携を強化するとともに、近隣諸国の海上環境取締機関との連絡窓口の設定など、国際的な連携を推進することとしている。

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