1 時代の変化に対応して
古来から我々は様々な海の恩恵に浴してきた。
食料としての魚介類はもとより、凪いだ海や海岸の風景は我々の心に憩いと安らぎを与えてくれた。時として我々は荒れた海に畏怖するが、それと同時に大自然の偉大さや海と安全に接するための術を学ぶことができた。
また、海に囲まれた日本には、海を渡って様々な思想や文化が伝わってきた。海は異国との交流の手段、交流の場であり、交流を通じて様々な恵みがもたらされた。航海の手段や技術などが発達していない時代に海を渡ることは非常な困難を伴ったものと想像できる。それ故に、交流のスピードは陸続きの国々の交流に比べてゆっくりとしたものであっただろう。また、それ故に、海がいわば自然の要塞として、異国からの脅威を遮断し、日本を守っていたものと思われる。
時代は変化し、今や、物、金、人、技術、情報といったあらゆる要素が、より自由に、迅速に海を越えて移動する大交流時代となっている。相互依存化が進む現在において、我が国の安全と繁栄を確保し、国民の安全で豊かな生活を実現していくため、今後とも交流は増えるものと考えられる。
しかし、その一方で、薬物の密輸の増加、外国人の密航の増加などに見られるように、グローバル化のもつ負の側面も認識されるようになってきている。海上保安庁はかつて海が果たしていた、海を越えてくる悪い交流を遮断する役割をしっかりと担わなければならないと考えている。
以前は一国内のみで活動していた犯罪組織も、今では国外にまで活動の場を拡大している。密航、密輸、海賊などの背後には、国際的な犯罪組織が国境を越えて暗躍している。このため、常にその動静に留意する必要がある。また、こうした犯罪組織の動きを封じるため、各国の海上警備機関等との連携・協力が大変重要になってきている。
グローバル化と並んで21世紀に向けて注目すべき社会の変化としては、情報技術革命があげられよう。
11年後半頃から『情報技術革命』、『IT(Information Technology)革命』という言葉が盛んに言われるようになった。IT革命とは、「インターネット」や「モバイル通信」など新しい情報技術の登場と急速な普及により社会構造が全く違ったものに変化することを意味する。「産業革命」により人々を取り巻く環境や生活が大きく変わったように、「IT革命」により「産業革命」に匹敵する変革がビジネスや暮らしに起こるのではないかと予測されている。我が国では、そう遠くない将来に、パソコンよりも移動型電話からインターネットにアクセスする人の割合が増えるのではないかという意見もある。
既に、国の機関においては、インターネットを活用して、ホームページからの情報発信のほか、意見・申請等の受付も行っている。
また、インターネットは、ネットワークが分散管理型で形成されているため一部に障害が発生した場合にも自動的に迂回路を経由して情報が伝達されること、単一の情報に多数の人がアクセスできることといった特性を有していることから、震災のような大規模災害が起きた場合の情報ネットワークインフラとしても活用が期待されている。
さらに、航行安全のシステムの中に情報技術を活用することにより、特に船舶のふくそうする海域において、従来より迅速かつきめ細かな情報提供と航行管制の実現が期待できる。また、救難のシステムに活用することによって、救助率の向上に結びつけることができるものと考えている。
我々個々人の生活に目を転じると、日本人全体が、海に親しみ、遊ぶ機会が少なくなっているように思われる。
広大な海は生命の源であり、人類のルーツでもある。
海を見て、海の向こうに目線を向けることで、交流の心も育まれ、海外での出来事にも関心が深まることだろう。
「自然への畏怖」という言葉があるが、海にはすべてを包み込む強さとたくましさがあり、寛容な心と好奇心を育み、我々に安らぎを与え、傷ついた心を癒してくれる。また、その厳しさ故にチャレンジ精神や判断力を養ってくれる。
今、日本は大きな転機を迎えているが、こうした海の存在を考えると、我々に必要な恵み、栄養素を与えてくれる海への関心が大きく深まることで、21世紀への新しい展望が拓けてくるのではないだろうか。
そのために海上保安庁ができることは、国民が気軽に海に親しむことができる、そして、一人一人の生活の中で海が身近に感じられる環境作りであろうと考えている。生活の中で、海の存在、海への親近性が薄くなっていると思われる今日、より多くの国民が安心して海に親しみ、海で遊べるように応援していきたい。
以上のような時代の変化と目指すべき方向を踏まえて、以下に海上保安庁の取り組みについて詳述する。