4 安心して海に親しむために


 (1) 根強いマリンレジャーの人気


 11年における海水浴、釣りといったマリンレジャーの参加人口(マリンレジャー活動を1年間に1回以上行った人口)をみると、海水浴参加人口は2,360万人、釣り参加人口は1,810万人、スキンダイビング、スキューバダイビング参加人口は合わせて120万人、ヨット、モーターボート参加人口は110万人、サーフィン、ウインドサーフィン参加人口は60万人となっている(レジャー白書2000(12年4月 財団法人 余暇開発センター)。以下「レジャー白書」という。)。

 レジャー白書では、最近のレジャー全体の傾向として、国内観光旅行や遊園地等の屋外型・非日常型レジャーの参加人口は減少し、家の中や家のまわりで費用をかけずに楽しめる日常的レジャーであるパソコン、ビデオ鑑賞等の参加人口が増えていることが指摘されている。

 このようなレジャー全体の傾向を反映して、7年から11年の5年間では、屋外型レジャーである海水浴参加人口は減少傾向となっている。しかし、その他のマリンレジャーの参加人口はほぼ横ばい状態にあり、人気の根強さが伺われる。(第1−4−1図参照)

第1−4−1図 マリンレジャーの参加人口の推移

 小型船舶を利用してマリンレジャーを楽しむために必要な資格である小型船舶操縦士免許の受有者数についてみると、1級から3級の小型船舶操縦士は、ここ数年60万人台で横ばい状態にあるものの、4級小型船舶操縦士は年々増加している。また、5級小型船舶操縦士の資格が10年5月に創設され、ますます小型船舶でマリンレジャーを楽しみやすくなっている。

5級小型船舶操縦士資格制度の創設

 最近の特徴として水上オートバイ、フィッシングボート等を使用して海岸近くの水域で楽しむマリンレジャーの人気が高まっていることから、運輸省ではこのような実態に即した小型船舶操縦士資格制度の在り方の検討を行い、10年5月、5級小型船舶操縦士の資格が創設された。

 5級小型船舶操縦士の受有者は、総トン数5トン未満の小型船舶で、陸岸から1マイルの水域等を航行することができる。

 また、ヨット、水上オートバイ、モーターボートなど、スポーツ又はレジャーに用いられる船舶(以下「プレジャーボート」という。)の保有隻数については、ヨットは減少傾向にあるものの、水上オートバイ、モーターボートは増加傾向にあり、プレジャーボート全体としては、年々増加傾向にある。

 さらに、プレジャーボート製造業界では、従来高額であったプレジャーボートの価格を低廉化するため、船体とエンジンを一体で販売する、いわゆるパッケージボートを開発し、自家用自動車並の価格で販売して消費者層の増大を図っている。


 (2) なぜ事故は起きるのか


@ ワーストワンはモーターボートの海難

 11年に救助を必要とする海難に遭遇した船舶(以下「要救助船舶」という。)は1,920隻で、これに伴う死亡・行方不明者は146人であった。このうちプレジャーボートは759隻と全体の40%を占め、これに伴う死亡・行方不明者は15人であった。プレジャーボートの要救助船舶隻数の推移をみると、9年に、これまで最多であった漁船を抜いてトップとなり、それ以降、毎年10%前後の増加傾向を示している(第1−4−2図参照)。

第1−4−2図 要救助船舶の用途別隻数の推移(台風及び異常気象下のものを除く。)

 プレジャーボートの要救助船舶隻数を海難種類別でみると、多い順から、機関故障(184隻)、乗揚げ(116隻)、衝突(107隻)となっている。また、海難の原因別では、見張り不十分、操船不適切、機関取扱不良等の人為的要因によるものが575隻と全体の76%を占めている(第1−4−3図、第1−4−4図参照)。

第1−4−3図 プレジャーボート要救助海難隻数(海難種類別)

第1−4−4図 プレジャーボート要救助海難隻数(海難原因別)

 プレジャーボートの要救助船舶隻数を船型別にみると、モーターボートの占める割合が大きく、11年は、576隻と全体の76%を占め、次いでヨット(13%)、水上オートバイ(6%)、手漕ぎボート(5%)の順となっている。また、7年から11年の過去5年間のプレジャーボート要救助船舶隻数の推移をみると、モーターボートが増加傾向を示している(第1−4−5図参照)。

第1−4−5図 プレジャーボートの要救助船舶隻数

 モーターボートの要救助船舶隻数を海難種類別でみると、機関故障は152隻、乗揚げは84隻、衝突は77隻、燃料及びバッテリー容量不足による航行不能は54隻であり、これらの合計はモーターボートの要救助船舶隻数全体の64%を占めている(第1−4−6、第1−4−7図参照)。

第1−4−6図 モーターボート要救助海難船舶隻数(海難種類別)

第1−4−7図 モーターボート海難種類別推移

 ア 機関故障

 7年から11年の過去5年間の機関故障による要救助船舶隻数の推移をみると、7年に93隻発生していたものが年々増加して、11年は152隻となっており、機関故障の増加がモーターボートの海難を増加させる要因の一つに挙げられる(第1−4−7図参照)。

 11年の機関故障の内訳及び代表的な事故概要をみると、

 ・燃料系統(35隻):燃料タンクのバルブを閉めないまま航走したため、雨、海水等が燃料へ混入したことにより故障したもの

 ・起動系統(33隻):セルモーターの接触不良等により起動しなかったもの

 ・冷却水系統(26隻):冷却水バルブを閉めたまま航走したことにより、冷却水がエンジン内を循環せず、オーバーヒートしたもの

 ・軸系統(25隻):軸系の潤滑油の油量の減少、また、油圧が低下しているにもかかわらず、確認を怠り出港し、航行中に軸の焼付けをおこしたもの

などが挙げられる。これらが機関故障全体の約4分の3を占めており、そのいずれもが機関取扱いの初歩的なミスに起因するものといえる。

 また、7年から11年の5年間についても上記4つの系統による故障が全機関故障の75〜80%を占めている。

 イ 乗揚げ

 7年から11年の過去5年間の乗揚げによる要救助船舶隻数の推移をみると漸増傾向にあり、7年に60隻発生していたものが11年は84隻となっている(第1−4−7図参照)。

 11年の乗揚げの原因は、船位不確認(24%)、見張不十分(23%)、水路調査不十分(15%)の順に多い。11年の原因別内訳及び代表的な事故概要をみると、

 ・船位不確認(20隻):航行し慣れたコースだからと船位を確認せずに方位に基づいて漫然と航行していたため、満潮により冠水していた海上構造物に乗揚げたもの
 ・見張り不十分(19隻):航行中、釣り道具の準備をしようと一時見張りを放棄して準備作業に従事していたため、海面上に露出にしていたテトラポットに乗揚げたもの
 ・水路調査不十分(13隻):初めての海域を航行するに際し、事前の水路調査を行わないまま岸に沿って航行していたところ、海図に掲載されている浅瀬に乗揚げたもの

などがあり、これらの原因が乗揚げ全体の約3分の2を占めている。また、7年から11年の5年間をみると、乗揚げ事故については、次のような特徴が認められる。

 ・フィッシングを目的とした航海中の事故が全体の約3分の2を占めている。
 ・土曜日、日曜日及び祝日に乗揚げ事故全体の約3分の2が集中している。

 ウ 衝突

 7年から11年の過去5年間の衝突による要救助船舶隻数の推移をみると漸増傾向にあり、7年に67隻発生していたものが11年は77隻となっている(第1−4−7図参照)。

 11年の衝突の原因は、見張不十分が約3分の2を占めており、次いで操船不適切(10%)、避難時期不適(8%)の順となっており、見張不十分が圧倒的に多い。

 その概要を11年の事例でみると、

 ・モーターボートで、釣りを楽しんでいたところ、釣りに夢中になり周囲に注意を払うことなく、近くの海域にいた船舶に衝突したものなどがある。

 また、7年から11年の5年間をみると、衝突事故については、次のような特徴が認められる。

 ・毎年の事故発生海域は、距岸3海里未満のものが、全体の約90%を占めている。
 ・フィッシングを目的とした航海中の事故が全体の約4分の3を占めている。
 ・土曜日、日曜日及び祝日に衝突事故全体の約3分の2が集中している。

 エ 燃料及びバッテリー容量不足による航行不能

 7年から11年の過去5年間の燃料及びバッテリー容量不足により航行不能となった要救助船舶隻数の推移をみると漸増傾向にあり、7年に27隻発生していたものが11年は54隻となっている(第1−2−7図参照)。

 その概要を11年の事例でみると、

・出港時に自船の燃料の残存量を確認することなく航走し、途中燃料不足となり航行不能に至ったもの
・長時間機関を停止したままフィッシングを行っていたところ、作動中の航海計器等が電気を消費し続け、帰港しようとしたときは既にバッテリーが過放電状態となり、機関を起動できずに航行不能となったもの

などがある。

A 死亡率の高い海浜事故

 海浜事故者数については、2年から漸次減少傾向であったのが、猛暑であった6年に大きく増加し、翌7年に一旦減少に転じたものの、その後は増加傾向にある。

 11年における事故者数は800人(10年741人)で、このうち348人(10年323人)が死亡・行方不明となっている(第1−4−8図、第1−4−9図参照)。

第1−4−8図 海浜事故の年次推移

第1−4−9図 マリンレジャーに伴う海浜事故の発生状況(11年)

 海浜事故者数を種類別にみると、遊泳中及び磯釣り中におけるものが484人と全体の61%を占めており、サーフィン中、スキューバダイビング中、ボードセーリング中がこれに続いている。それぞれの死亡率(事故者数に対する死亡・行方不明者の割合)は、磯釣り中が60%、遊泳中が58%、スキューバダイビング中が38%、サーフィン中が14%、ボードセーリン中が10%となっており、磯釣り中、遊泳中の事故の死亡率が高い。これは、サーフィン等の場合は、ウェットスーツを着用しているためその浮力により呼吸の確保が容易であったり、ボードにつかまって救助を待つことが可能であるのに対し、磯釣り中あるいは遊泳中の場合には、自ら泳いで呼吸を確保しなければならないことが主な原因と考えられる。

 死亡率の高い磯釣り中あるいは遊泳中の事故について、その形態及び原因をみると、次のとおりである。

 11年における磯釣り中の事故者数は199人であり、形態別に見ると、海草で足を滑らせる等により転落、転倒したものが109人(55%)と最も多く、高波に襲われる等により波に引き込まれたものが42人(21%)、釣り中に天候が悪化し瀬渡船による収容ができなくなった等により孤立したものが30人(15%)となっている。また、原因別に見ると、悪天候下の活動等の無謀行為によるもの、気象・海象や地形等に対する不注意によるものが全体の80%となっている。

 また、遊泳中の事故者数は285人であり、形態別に見ると、波に引き込まれたものが89人(31%)と最も多く、海底の窪み等の深みにはまったものが59人(21%)、岸に戻れず漂流したものが45人(16%)となっている。また、原因別に見ると、酒酔いや遊泳禁止の海域での遊泳といった無謀行為によるもの、泳力不足をはじめとする知識技能の不足によるもの、気象・海象や地形等に対する不注意によるものが全体の87%となっている。

 最近の事故について、更に踏み込んで分析するため、プレジャーボートの愛好者及び磯釣りの愛好者に対するアンケート調査を実施したところ、調査結果からは次のことが認められた。

・愛好者のうち少なからぬ者が乗揚げや海中転落の危険に陥りかけた経験を有していること。
・船内に海図等を備えていない者が多数いること。
・救命胴衣があまり着用されていないこと。
・多くの愛好者が携帯電話を利用していること。
・マリンレジャーの安全確保に関する意見・要望として、浅瀬や漁具の設置状況、気象・海象に関する情報の提供要望が多数あったこと。

(アンケート調査の概要については、第2部3章T−1参照。)


 (3) 新たな安全施策


 最近、モーターボートの海難が増加しているのは、愛好者が船の取扱いに慣れていないことが原因の一つであると言える。

 また、海浜事故については、遊泳禁止海域で遊泳し溺れたものや、磯釣り中に足元をよく確認していなかったため転倒したものなどが多く見られ、これらの事故は愛好者がほんの少し安全に注意を払っていれば防げたと思われる。

 海上保安庁では、「プレジャーボート」用、「遊漁船」用、「水上オートバイ」用の3種類の海難防止指導パンフレットを作成し、また、マリーナや販売店等にこれを備えおき、これからマリンレジャーをはじめようとする人を主な対象として配布するなど、レジャーの目的に応じたきめ細かな啓発活動を行っている。

 また、12年のマリンレジャー安全・振興旬間における安全啓発キャンペーンにおいて、死亡・行方不明者数が前年の83人から120人へと大きく増加した磯釣り愛好者を対象に、釣り場における注意事項を記載したリーフレットを釣り宿、釣具店等を通じて配布し、事故防止を呼びかけた。この他にも、各種マリンレジャー安全講習会への講師派遣やマリンレジャーの安全対策協議会の活動に対する支援等、マリンレジャーに伴う海浜事故の防止に向けた様々な対策を講じている。

 しかし、事故の発生件数は依然増加傾向にあり、海上保安庁による一方通行的な安全指導には自ずと限界があると言わざるを得ず、従来の手法を改め、新たな事故防止対策を講じる必要がある。

 そこで、マリンレジャー愛好者自らが自覚を持って安全意識を高めていける環境を整備する必要があるとの認識に立ち、広く国民一般が海で遊び、海と親しみ、海から安全を学ぶ環境づくりを応援することにより、事故の発生を未然に防止していくというアプローチを検討しているところである。

 海上保安庁では、12年2月にマリンレジャーの安全等を一元的に企画・調整する「マリンレジャー安全・振興室」を設置し、マリンレジャーを安全に楽しめる環境を整備するための体制を整えた。また、12年3月から6月にかけて計3回、「海で安全に楽しく遊ぶ懇談会」を開催し、今後どのような視点でマリンレジャーの安全施策を推進し、どのように安全で楽しい海を実現していけばよいかといった基本的な事項について、マリンレジャーの愛好者等から幅広く意見を聴取した。

 今後とも、マリンレジャーのニーズを踏まえ、その振興をも考慮に入れたマリンレジャーの安全施策を企画、推進することとしている。現在、検討している具体的施策は次のとおりである。

@ 海道の旅(マリンロード)構想

 この構想は、マイカーでドライブに行くようにプレジャーボートで海道を使って、安全にゆとりある海上旅行ができる環境整備を進めるものである。

 具体的には、プレジャーボートで安全に旅をすることができるように、出入港航路の安全確保や係留場所等の面で適切な港湾やマリーナ等を海道の宿場に指定し、それらを結ぶ安全推奨航路を設定する。また、寄港地では宿泊、観光はもとより、気象・海象、海上安全及びレジャー、陸上アクセス、給油施設等の情報が入手できるようにし、さらには万一海上で海難等に遭遇した場合には、民間救助機関による迅速な救助を可能とするネットワークを構築するというものである。

 海上保安庁では、本構想を通じて、愛好者の自己責任意識及び安全意識の向上を図っていくこととしている。

A 携帯電話の海難救助への有効利用

 迅速な救助のためには、事故の発生を救助機関に対して速やかに連絡することが重要である。11年度通信利用動向調査(郵政省)によると、携帯電話の世帯における保有率は、9年には46.0%であったものが、11年には64.2%と、着実に増加している。また、海上保安庁が実施したアンケート調査でも、マリンレジャー愛好者の多くがマリンレジャーの場に携帯電話を携行していることがわかっている。さらに、5月下旬の2日間にわたり、緊急通報用電話番号「118」への事故発生の通報について調査したところ、携帯電話による通報は全体の40%を占めていた。こうしたことから、緊急時のための連絡手段として携帯電話を海難救助に有効に利用できないか検討しているところである。

 携帯電話を連絡手段として活用する場合の注意点は、海上においては、携帯電話の通話可能エリアが限られていることである。このため、海上保安庁では、携帯電話事業者による通話可能エリアの拡大を支援するために、灯台等の利用について、当庁の業務に支障のない範囲で協力することとしている。

 また、海には地番・地名等がないことから、遭難者が自分の位置を救助機関に伝えることが困難であるという問題もある。これに対処するため、ピンポイントで位置を測定することが可能な小型GPS受信器を使い、自分の位置を携帯電話により自動的に救助機関に伝える新たな緊急時位置通報システムの開発、普及について検討を進めるとともに、既存の通報システムの普及を支援している。

 なお、海難事故が携帯電話の通話可能エリア外で発生した、又はエリア外に及んだ場合の捜索方法等については、今後の課題として検討を進めることとしている。

B より安全な海に向けて

 11年の磯釣り及びプレジャーボートの事故について調査した結果、救命胴衣を着用していた者の生存率は79%であったのに対し、着用していなかった者の生存率は31%であった。前述のアンケートにおいても、救命胴衣があまり着用されていないとの結果が出ており、今後、事故発生の際に死亡・行方不明とならないために有効な救命胴衣の着用率の向上策の検討を進める必要がある(第1−4−10図参照)。

第1−4−10図 救命胴衣着用・未着用別生存者と死亡・行方不明者の割合(11年)

 また、マリンレジャーの事故の中でも特に、遊泳中、磯釣り中の事故には、気象・海象の把握が不十分であることに起因する事故が多く見受けられる。そこで、広域における気象・海象情報はもとより、限定された地域の気象・海象情報等をも提供する必要がある。このため、インターネットや携帯電話を使った情報提供の充実を図る等、提供する情報の内容及び提供方法について検討していくこととしている。

 さらに、長大な我が国沿岸海域で日常的に頻発するマリンレジャー等の海難に対し、迅速かつ的確に救助活動を行うためには、海上保安庁の勢力のみならず民間救助機関も活用することが有効であることから、(財)日本海洋レジャー安全・振興協会が行う会員制プレジャーボート救助システムBAN(Boat Assistance Network)のサービスエリアの拡張、(社)日本水難救済会等民間ボランティア団体の活動の支援を行っていくこととしている。

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