平成15年3月14日
海 上 保 安 庁

九州南西海域における工作船事件の全容について

 海上保安庁では、去る平成13年12月22日に、防衛庁からの「不審船舶」の情報を受けて発動した巡視船、航空機が東シナ海において発見した国籍不明の漁船型船舶「長漁3705」の乗組員によって行われた、漁業法違反(立入検査忌避)に端を発する海上保安官に対する銃撃事件(九州南西海域における工作船事件)の解明のため、第十管区海上保安本部及び鹿児島海上保安部に捜査本部を設置し、以下のとおり、鋭意捜査を進めてきたところである。

○ 平成14年2月25日〜3月1日: 船体沈没位置特定のためのROV調査
 測量船「海洋」搭載のサイドスキャンソナーを用いた沈没位置の調査及び巡視船「いず」搭載の自航式水中カメラ(ROV)を用いた船体状況の調査を実施し、船体の外観、「長漁3705」との船名表記等を確認。

○ 平成14年5月1日〜5月8日: 有人潜水調査
 大気圧潜水士及び有人潜水艇による船体外観調査を実施し、船体の引揚げが可能か否かを判断するために必要な情報を入手。これに併せて、複数の証拠物を回収。

○ 平成14年6月25日〜9月14日: 船体等引揚げ作業
 6月21日の船体引揚げに関する政府方針決定を受けて、船体の引揚げ作業を実施、9月11日には作業台船(第六十吉田号)上に設けられたプール内への回収が完了。
 また、船体の引揚げ作業に併せて、船体周辺の海底で発見された武器類その他の証拠物を回収(9月14日まで実施し、同日すべての作業船等は現場離脱。)。

○ 平成14年9月15日〜10月6日: 船体の安全確認作業
  9月14日に作業台船を鹿児島港外へ回航後、9月15日より作業台船上のプール内で、引き揚げた船体の安全確認作業を実施。この過程で、船内において小舟や水中スクーターの存在を確認したほか、複数の証拠物を回収。10月6日には鹿児島港内の岸壁に陸揚げした。

○ 〜平成15年3月14日: 押収証拠物の整理・分析・鑑定嘱託等
   上記の捜査過程で押収した合計1,032点にのぼる証拠物の整理・分析・鑑定嘱託を行うとともに、所要の捜査を実施。

 本捜査の過程では、相次ぐ台風の襲来等厳しい自然条件の中での水深90メートルを超える海底からの船体の引揚げ、泥類や腐敗物が堆積した船内における武器類や自爆装置の安全化、長期にわたり海水に浸かった多数の証拠物に係る捜査等、数多くの困難に直面したが、警察、防衛庁等の政府関係機関のほか、民間サルベージ会社や各証拠物のメーカー等、様々な関係者の協力を得ながら、組織の全力を傾注して事件の全容解明に努めてきた。
 この度、漁業法の立入検査忌避罪と刑法の殺人未遂罪についての容疑が固まったため、本日付けで鹿児島地方検察庁に送致することとした。これに併せて、送致犯罪事実の要旨と、これまでの捜査の過程で判明した事実から推定される工作船の行動目的等、一連の捜査により明らかとなった事件の全容について、以下のとおり公表するものである。

1 犯罪事実の要旨
  A) 犯罪事実について
    以下の(1)及び(2)の事実が、今般の送致に係る犯罪事実を構成する。
  (1)立入検査忌避罪(漁業法第141条第2号)について
  平成13年12月22日午後1時12分頃、鹿児島県大島郡大和村所在の大山埼灯台から真方位289度約181海里(北緯29度18.8分、東経126度6.9分慨位)付近海上の本邦排他的経済水域内において、漁船型船舶「長漁3705」の乗組員が「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」第5条第1項の規定に違反する無許可漁業等を行っている疑いがあったことから、漁業法上の漁業監督官たる地位を有する海上保安官が、事実関係を確認するため同船に対して立入検査を行うべく、国際旗りゅう信号、拡声器、汽笛等により停船命令を繰り返したにもかかわらず、これを無視して逃走を継続、立入検査を忌避する強固な意志が認められたことから立入検査忌避罪(漁業法第141条第2号)を構成すると認めた。
  (2)殺人未遂罪(刑法第199条及び第203条)について
  平成13年12月22日午後10時9分頃、鹿児島県大島郡大和村所在の大山埼灯台から真方位284度約216海里(北緯29度12.7分、東経125度25分慨位)付近海上において、巡視船あまみ及び同きりしまが、犯人の逃走の防止のため「長漁3705」を挟撃して接舷しようとしたところ、同船乗組員数名が、保有していた自動小銃、ロケットランチャー等複数の武器を用いて、上記巡視船2隻及び巡視船いなさの船橋にいた海上保安官に向け至近距離から銃撃を行い、巡視船あまみ乗船の海上保安官3名に対し、約7〜10日間の入院・加療を要する傷害を負わせた。この行為は明らかに海上保安官に対して殺意を持っており、結果的には傷害に止まったものの殺人未遂罪(刑法第199条及び第203条)を構成すると認めた。
  B) 被疑者について
  本件犯行の被疑者は、事件発生直後に同船が沈没し、同船乗組員全員が死亡又は所在不明で、乗組員の供述等が得られない状況であったものの、同乗組員は常に整然統一した行動をとっており、乗組員全員が共同意志の下に一体となり本件犯行に及んだことが推認できることから、共謀共同正犯による犯行(刑法第60条)と認定した上で、逃走状況及び巡視船に対する銃撃状況を撮影したビデオ解析により特定した乗組員10名を本件被疑者とした。
  被疑者のうち2名は、服装、人相等の特徴から事件発生直後に工作船の沈没現場付近海上で死体で回収された者と人定され死亡が確認されているが、残り8名の人定については、その後回収された死体及び人骨の鑑定等の結果からも特定できなかった。しかしながら、工作船沈没時から船体引揚時までの間長期間かつ広範囲を巡視船・航空機等により綿密に捜索したが漂流死体の発見に至らず、また発生から1年以上経過しているにもかかわらず生存に関する情報もないこと及び、潜水調査等において、工作船沈没時に溺死したと推定される乗組員と思われる少なくとも6名分の死体及び人骨(死体2体及び人骨4名分)を押収していることから、全員死亡したと認めた。
  なお、漂流死体2体を含む8名分の死体及び人骨の鑑定結果は次のとおりであり、鑑定後、全て荼毘に付し「行旅死亡人」として鹿児島市に引き渡した。
(1)性別 男性
(2)年齢 20歳代から50歳代
(3)死因 溺死(推定)(ただし3名分のみ。残り5名分は不明。)
(4)人種 DNAの遺伝的特徴及び歯牙鑑定結果から朝鮮人又は韓国人
      ある可能性が極めて高い(ただし7名分のみ。残り1名分は不明。)
(5)薬毒物検査検出 なし
  C) 犯罪供用船舶について
 船  名    長漁3705
 全  長    29.68m
 喫水線長   26.88m
 型  幅    4.66m
 型 深 さ    2.30m
 総トン数    44 トン
 主 機 関    ロシア製高速ディーゼルエンジン 4基
 出  力    連続最大出力で約1,100ps×4=約4,400ps
 推 進 器    3翼固定ピッチプロペラ 4基
 速  力    約33ノット程度(連続最大出力時)
 航続距離   1,200海里(速力33ノット時)
          3,000海里(速力7ノット(追跡時の速度)時)
(1) 上部構造物
 上甲板上には、船首に「低船首楼」、中央付近から後部にかけて操舵室等の「上部構造物」、船首から船尾までの舷側には「ブルワーク」(海水の船体への流入を防ぐために甲板の縁に設けられた外板)、船尾端には一段高い甲板等が設けられて、漁船に似た構造配置となっている。上部構造物は、前方より「操舵室」、調理(釜戸が設置)等を行う「居住区画」及び「14.5o対空機関銃の格納区画」となっているが、それ以外に船内には居住用の区画がないことから、乗組員全員は操舵室を含む上部構造物内で仮眠、調理等の生活をしていたものと考えられる。
 また、甲板上には、マスト、巻き上げドラム、引出式オーニング(天幕)等の艤装品を備え、機関室の大きな天蓋はシートでカバーする等の「偽装」が行われている。
 上甲板と低船首楼甲板との間は、「食料等の倉庫」として使用されていたものと考えられる。
(2) 主船体
 上甲板下の主船体には、船首部分に空所と固定バラスト、その後方に空所と複数の燃料タンクが配置され、船首部と操舵室との間に第1(前部)、第2(後部)機関室、中央〜船尾に子舟格納区画および燃料タンク、バラストタンクが配置されている。
 また、機関室前方の上甲板には、かつては何らかの武器(14.5o対空機関銃と推定)が装備されていたと推定されるウェル(床下収納用の倉庫区画)があり、当該ウェルの床には高圧空気が導かれ、ウェル前後の壁に各2箇所の計4カ所に設けられた上下方向のレールに沿って武器が上甲板まで上下できるようになっていたものと考えられる。なお、沈没当時は、ウェルに武器は装備されておらず、ゴムボート等が格納されていた。
(3)機関室
 機関室は第1機関室と第2機関室より構成されており、それぞれの機関室に各2基の機関を有している。第1機関室の2基が外側のプロペラ軸を、第2機関室の2基が内側のプロペラ軸を駆動するようになっており、プロペラ軸およびプロペラの総数は4である。
(4)子舟格納区画
 機関室の後方の区画は「子舟格納区画」となっており、同区画の最前方は子舟の船首部を収納するために、中央部で第2機関室内に張り出した構造になっている。
 また、子舟格納区画の後端は船尾であり、子舟を出し入れするために、船尾は中央部で左右に分かれた観音開き式の扉になっている。
 同区画の側面には両舷とも燃料タンクが設けられており、船底側にはバラストタンクが設けられている。燃料タンクの上には、子舟用燃料(ガソリン)の仮設タンク4個が設置されている。
(5)子舟
 全  長    11.21m
 全  幅    2.5m
 深  さ    0.95m
 喫  水    0.6m
 総トン数    2.9 トン
 主 機 関    スウェーデン製ガソリン船内外機 3基
 出  力    約300ps×3=約900ps
 推進方式    アウトドライブ
 推 進 器    3翼固定ピッチプロペラ 3基
 最大速力    約50ノット(類似艇の実績から推定)
 航続距離    約150海里(速力50ノット時)

ア 主船体
 船型はV型の滑走艇タイプで、船体はFRP、通常のFRP艇に比べ板厚は薄く、軽量で、強度は低いものと考えられる。

イ 一般配置
 甲板下に船首から、「空所」、「倉庫区画」、「操舵室」及び「機関区画」が配置されている。
 倉庫区画内には燃料タンク3個が格納されている。操舵室は、長さ1.6m×幅1.3m×深さ0.75mで船体中央直後に配置されている。機関室には、ガソリン船内機3基が装備されている。

ウ 特殊構造
・ 操舵室の囲壁は昇降式となっており、甲板下に収めた状態で発見された。母船から海に出て航走する際には囲壁を持ち上げて固定し、母船に収用する際は囲壁を下げた状態で格納したものと考えられる。
・ 倉庫区画の船側外板の両舷に水密蓋が設けられており、この蓋を開けると倉庫区画に海水が流入し、逆に、トランサム(船尾外板)下部から操舵室に通じる2本の蓋付管の蓋を操舵室内で開放すると、この水を排出できる仕組みになっている。この仕組みにより船体を沈下させ、母船の小舟格納区画への出し入れを容易にしたり、沿岸部への接近時に存在を目立たなくしていたのではないか、と考えている。
・ 倉庫区画の甲板上には水中スクーターを格納するウェルが設けられており、コーミング(外枠)とFRP製蓋が設けられている。
・ 爆発物(後述)が操舵区画付近に2個搭載されており、この2個はソケットを中間に介してリード線で連結されていた。なお、別途海底で発見された、ハングル文字で「自爆」と記載されたスイッチ1個が、このソケットに合致するのを確認したことから、自爆装置であったと考えている。
・ 甲板上にハンドルを回すことにより昇降する鋼管が5本設けられている。これらは、母船に格納された場合に子舟格納区画の天井に突っ張って子舟を固定するためのものと考えられる。
(6)船尾扉
 船尾外板は中央部で左右に2分割されており、エアーシリンダーによって観音開きに開閉する構造となっている。この船尾扉には、内部の水密性を確保するためと推察されるパッキンが設けられている。また、両舷扉上部には、開放状態を保つため人力で操作する支柱が設けられ、左舷扉は、船内側に設置されたネジ込み式鋼管を人力で回すことによって、船外側の下端で楔形金物により右舷扉と併せてロックされる構造となっている。
(7)主機関排気口
 各主機の排気管は舷側の排気口に導かれているが、全ての排気口の船外側に、ピンを中心として主機関の作動状態に応じて自動的に上下に回転する鋼製蓋が設けられている。これは、主機を4基搭載していることを隠す目的と考えられる。
(8)武器関連設備
 船首楼甲板に82o無反動砲の鋼製格納箱が埋め込まれて設置されており、同甲板に同砲を使用する際の固定台と思われる円柱(頂部が銃座用に加工)が設置されている。
 また、船体後部に設けられた「14.5o対空機関銃の格納区画」の床面から船尾甲板まで2本の鋼製レールが引かれており、このレールに沿って14.5o対空機関銃を出し入れする仕組みになっていたものと考えられる。逃走中は、このレールを隠すため、後部甲板が木板で覆われていた。
(9)船型、構造の特徴等
 船型の特徴としては、古い型の延縄漁船あるいは巻き網漁船に似た船型となっているが、喫水線下の形状に関しては漁船船型と大きく異なる高速航行のためのV型船型となっている。また、外板の厚みも我が国の同程度の漁船に比して著しく薄く、フレーム(船体外板を支える鉄骨)の間隔が狭い等、構造的にも通常の漁船と非常に異なっていることから、同船は特殊な用途、任務のために建造された特別の船舶であり、我が国の一般の漁船が輸出され、改造されたものではないと考えられる。
(10)国籍
 乗組員の死体の司法解剖により、7名分の人種は朝鮮人又は韓国人である可能性が極めて高いとの鑑定結果が出ており、また、引揚げた船体、武器、その他に押収した多数の証拠物の捜査によって、北朝鮮の国民が着けていると言われる「金日成バッジ」北朝鮮内の工場名がハングル文字で表記された物品日本から北朝鮮に輸出された物品「党」に対する忠誠心を意味するハングル文字の記載された船体の一部と思われる木片北朝鮮を示す丸に星マーク及びハングル文字表記のある武器製造国が北朝鮮を示す番号の刻まれた実包、薬きょう等を押収している。
 これらの事実に加えて、平成14年9月17日に行われた日朝首脳会談の場において、金正日国防委員長が不審船事案について、軍部の一部が行ったと思われる旨の発言を行ったこと等から総合的に判断して、この犯罪供用船舶「長漁3705」については「北朝鮮国籍の工作船」であり、同船乗組員についても「北朝鮮国籍」であると特定した。
(11)「第十二松神丸」との同一性
 今回の工作船は、平成10年に東シナ海において、暴力団関係者が関与する日本漁船「玉丸」が接舷し、乗組員から覚せい剤を受領したとされる事件の相手船舶である「第十二松神丸」と船体各部の特徴が合致することから、同一船舶であるとの鑑定結果を得ている。これにより、同船も北朝鮮籍であったことが特定された。
(12)工作船の損傷及び沈没原因
 船首マストは根本を残すのみであり、第1及び第2機関室開口部のコーミング及び天蓋、一部の天蓋を除く上部構造物等は全て残っていない。また、ブルワークは、全体的に曲損しており原型を保っている箇所は少ない。主船体の損傷の状況は次のとおりである。
ア 船側外板
 第2機関室付近の船側外板に爆発によると考えられる若干の膨れが見られる
イ 隔壁
 第2機関室と子舟格納区画を隔てる隔壁(右舷側)には縦横最大約1メートルの破口(形状は複雑)があり、子舟格納区画側に鋼鈑が大きく折れ曲がっている。
 他の隔壁については、それほど大きな損傷は見られないが、第1機関室と第2機関室の間にある隔壁は第1機関室側に膨れて曲がっており、これも、爆発の影響を受けて変形したものと考えられる。
ウ 上甲板
 第1機関室から小舟格納区画後部に至るまで上方に膨れ上がっている。特に、子舟格納区画付近の損傷が大きく、同格納区画のデッキビーム(甲板を支える鉄骨)、フレーム、壁等の至るところに亀裂、破損が生じている。同格納区画の場合、機関室のような開口部の仮設天蓋でないことから、爆発の影響が大きくなったものと考えられる。また、第2機関室開口部付近の甲板も10センチメートル程度膨れ上がっている。
エ 子舟格納区画の損傷
 子舟格納区画の底板が凹損している。これはその下の区画がバラストタンクであるので、沈没時の水圧により発生した可能性が高い。
オ 船底外板
 キール(船底を縦通する鉄骨)の変形は船型計測の結果から見る限り小さく、船底外板への爆発の影響は小さいと考えられる。

 以上の状況に加え、「自爆」とハングル文字表記のあるスイッチボックスを回収していることや、当該爆発物が設置されていた船体中央部の船側外板には巡視船の射撃による弾痕は認められなかったこと、船底には目立った損傷は無く船底弁も閉じられていたこと等から、工作船の沈没の原因は、第2機関室右舷後方部分に設置した自爆用爆発物の爆発であったと考えている。この爆発により船尾扉の水密が破られるとともに、小舟格納区画及び機関室に一気に海水が入り、船体が横倒しになって沈没したと推察される。

  D) 犯罪供用武器その他の武器類について
  次の武器類を押収し、政府関係機関に鑑定嘱託した結果、いずれも殺傷能力のある武器等であり、特に以下のア〜オに掲げるものには時期不明なるも使用(発射)した痕跡が認められることが判明した。
ア 自動小銃 4丁(一部分回収を含む。)
  口径5.45o、AKS−74銃と推定、北朝鮮製と推定
  実包 84発
  空薬きょう 5個
イ 軽機関銃 2丁(一部分回収を含む。)
  口径7.62o、7.62oPK機関銃と推定、北朝鮮製と推定
  実包 219発
  空薬きょう 10個
ウ 2連装機銃 1丁
  口径14.5o、対空機関銃ZPU−2と推定、ロシア製と推定
  実包 752発
  空薬きょう 6個
エ ロケットランチャー 2丁
  口径40o、85oロケット弾PG-7系用弾薬の発射機と推定、北朝鮮製と推定
  弾頭 4個(一部分回収を含む。)
オ 無反動砲 1丁
  口径81.75o、82o無反動砲B-10と推定、ハングル文字の刻印あり
  砲弾は82o無反動砲用りゅう弾及び対戦車りゅう弾
  砲弾 6個
カ 携行型地対空ミサイル 2丁(一部分回収を含む。)
  口径56o、携行型地対空ミサイルIgla(イグラ)-9M「88」、ロシア製
  弾頭 2個
キ 手りゅう弾 8個(一部分回収を含む。)
  名称、型式及び製造国を示す刻印又は表示等はなく不明
ク 爆発物 2個
  名称、型式、製造国不明、装填火薬はTNT及びRDXによる混合爆薬(2個のうち1個の容器を除く爆薬重量は12s)
  また、銃撃時の状況、ビデオ解析結果、鑑定結果等から総合的に判断して、本件の凶器として使用された武器は、上記ア〜エに掲げる武器であると特定した。
  E) その他の重要証拠物について
   (1)携帯電話
 工作船船内において発見押収したプリペイドカード式の携帯電話の販売時期や架電先の契約者等について捜査した結果、この携帯電話は事件発生前の平成13年2月以降に岐阜県内の携帯電話販売会社で販売され(購入した者の特定はできず。)、同年5月から11月にかけて、合計百数十回にわたり、都内暴力団事務所の固定電話及び暴力団関係者が契約した携帯電話のほか、何者かが韓国籍の者を偽装してレンタル契約したと思料される携帯電話や、在日の朝鮮籍及び韓国籍を有する者が契約した携帯電話等にも架電されていたことが判明した。
   (2)無線機類
 押収した合計11台の送受信用の無線機や合計2台の受信専用の無線機については、メーカーや関係機関に鑑定を嘱託した結果、これらの基本的性能、改造の有無等は判明したが、残存データの読み出しが不可能であった。
 また、押収したポケットコンピュータは無線機に接続可能であるが、暗号変換方式の具体的な方式等については、ポケットコンピュータ及びRAMカードの残存データが読み出せなかったため不明であった。
   (3)GPSプロッター
 GPSプロッターについては、母船用のものと小舟に搭載されたものと合計2台を押収し、航跡記録の解明が期待されたが、前者は破損の程度が著しく、また後者は記録媒体に記録が残されていなかったことが製造元に嘱託した鑑定の結果判明した。
   (4)その他の重要証拠物
 船体の暴露甲板上、船首と前部機関室区画間の格納スペースの中に、ゴムボート2隻が格納されていたほか、潜水用の空気ボンベ、水中メガネ、防水スーツ等工作員の上陸用と思われる物品を多数押収した。
 また、船内で回収した雑多な証拠物の整理中に、鹿児島県の薩摩半島南東部の海岸線に沿った陸域の地形や施設等が示されている、防水加工された地図を発見、押収した。

2 推定される工作船の行動目的
  上記のとおり、
i) 今般の工作船が平成10年の覚せい剤密輸入事件において、東シナ海で暴力団関係者に北朝鮮仕出しの覚せい剤を受け渡した船舶「第十二松神丸」と同一船であったこと、
ii) 船内で発見された携帯電話の使用者は、都内暴力団事務所の固定電話及び暴力団関係者契約の携帯電話に頻繁に架電していたこと、
iii) 工作船の乗組員が、巡視船の追跡から逃走する過程で重要証拠物と疑われる物件を多数海中に投げ込み、これらが海中に没したこと、
iv) 鹿児島県の薩摩半島南東部の海岸線に沿った陸域の地形や施設等が示されている、防水加工された地図を発見したこと、

 等から総合的に判断して、今般の工作船は、以前より九州周辺海域を活動区域として、覚せい剤の運搬及び受渡しのために使用されていた疑いが濃厚である。また、地図の発見から、搭載されていた小舟等を使用して沿岸部に接近し、覚せい剤の受渡しのほか、工作員の不法出入国等、他の重大犯罪も併せて行っていた可能性も否定できないところである。
 また、この受渡しに先立って、我が国内にいた何者かが、契約者等が判明しにくいプリペイド式の携帯電話を購入し、国内の暴力団関係者との間で事前に連絡を取っていた、ということも推認される。この手引き者は、携帯電話の架電先・頻度から判断して、韓国籍の者に身元を偽装していた者や、在日の朝鮮籍及び韓国籍を有する者等との関係が深い者であったと思われる。
 ただし、具体の薬物等、これらの犯罪事実を裏付ける証拠物は発見押収されていないほか、目撃証言は得られておらず、また被疑者も全員死亡していることから、真相は不明である。なお、携帯電話の突き上げ捜査については、捜査を尽くしたものの、携帯電話の架電記録は11月が最終であり、事件の発生した12月の記録が無かったことから、架電先の人物と本件立入検査忌避及び殺人未遂事件との直接的な結び付きを明らかにすることができなかった。
 一方、日本人の拉致については、事件発生日の前に、地図に示された地域において、不審な行方不明者はいないこと、引き揚げた工作船の中に具体的な形跡はなかったこと等から、その可能性は低いと思われる。
 なお、今般送致した立入検査忌避及び殺人未遂の犯罪行為との関連については、巡視船に追跡され、立入検査を受ければ、これらの犯罪への関与及び工作船の実態が明らかになることを恐れて、停船命令を無視して逃走を続け、また、逃走過程において、証拠隠滅のために重要証拠物と疑われる物件を多数海中に投げ込み、さらに、巡視船からの威嚇射撃や、挟撃を受けてこれ以上の逃走が困難と判断したことから、海上保安官や巡視船に向かって発砲するとともに、最終的には証拠を隠滅する目的で、又は巡視船が近接してきた場合には、これを巻き添えにすることを見据えて、自爆したものと考えている。

3.意義と今後の予定
  上記のとおり、海上保安庁では、捜査機関としての使命を全うして、徹底的な捜査を行い、漁業法の立入検査忌避罪及び刑法の殺人未遂罪の容疑を固めた上で検察庁に送致したほか、犯罪事実の特定には至らなかったものの、北朝鮮の工作船が、覚せい剤の密輸入、工作員の不法出入国等の重大犯罪に供用されている可能性や、国内に協力者が存在している可能性が明らかにできたことは、同種の犯罪の発生を抑止する観点から、また、今後の日朝交渉を進めていく上で、極めて意義深いと考えている。
  今般の送致をもって、一連の捜査がひとまず終結したことから、本庁及び第十管区海上保安本部の「九州南西海域不審船対策本部」は解散することとする。
  なお、今回明らかになった工作船乗組員の犯罪事実、推定される行動目的等については、今後の日朝交渉の中で北朝鮮当局に示し、更なる詳しい説明を求めるとともに、再発防止を確保していく所存である。その過程で今般の送致に係る犯罪についての共犯者等、新たな事実が明らかになる場合に備え、第十管区海上保安本部及び鹿児島海上保安部の「九州南西海域不審船捜査本部」及び「同現地捜査本部」は存置することとする。
  また、今回の捜査の過程で、工作船の構造、装備、武装の程度等に関して、その実態を解明し、詳細なデータを得ることができたため、今後の同種事案への対処能力の向上に資することができると考えている。今後とも同種の事案の発生を認めた場合には、国民の安心と安全を確保するため、関係機関との協力の下、法に従い厳正に対処することとしており、今回の調査結果を活用しつつ、必要な運用態勢・装備の充実、強化を図って参る所存である。